ほんの少しだけ、雨が降っている。

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外出する際にもっとも気を遣うのは、気温である。最近は暖かい日が続くため、急激に寒くなる心配はない。だが、薄着で出かけると夜の肌寒さにシバリングが止まらないこともある。

そのため、半袖の上にジャケットを羽織るなど、屋外と室内で服装を変えるのがちょうどいい。たかだ2~3度違うだけでも、体感温度は5度くらい寒く感じるわけで、スプリングコートや薄手のジャケットが大活躍する季節なのだ。

そして多少の我慢をすれば、外の肌寒さにもすぐに慣れる。さらに都心ならば移動手段が豊富なため、電車やバスにタクシーなど、乗ってしまえば雨風凌げる便利なものがある。よって、大幅な寒暖差に脅かされることなく、一日を過ごすことができるわけだ。

 

となると、ここ最近の外出時に気を遣うことといえば、そう、雨だ。

たとえば、朝から雨であればとくに問題はない。なぜなら、傘を持って出掛ければいいからだ。しかし夕方以降が雨予報の場合、疑い深いわたしはそれを信じない傾向にある。

無論、明らかに天気が下り坂の場合は傘を持参するが、出掛ける際に路面も濡れておらず、雲の切れ目から青空が覗くような場合は、ものすごく悩まされることとなる。

数時間後に確実に雨が降るといわれても、今現在その予兆を感じられないのであれば、傘を持つ勇気が出ない。そもそも傘というのは、ささなければ単なる長い棒であり、電車に乗ったときなど邪魔以外のなにものでもない。

であれば、パーカーやフーディーなどフードの付いた上着を着ることで、小雨程度ならばダッシュで乗り切ることができる。わざわざ傘を持ち歩く必要などないというわけだ。

 

(いや待てよ。あの、超軽量折りたたみ傘があるじゃないか!)

 

一年前、わたしは超コンパクト軽量折りたたみ傘を購入した。重さはたったの70グラムということで、携帯電話よりも圧倒的に軽い。財布や化粧ポーチなどとは比較にならないほど、存在感は皆無である。

とはいえ、今日のわたしはまったくの手ぶらで出かけるつもりだ。持ち物といえば、尻のポケットにスマホ、そしてパーカーのポケットに鍵とクレカ。・・・以上。

となると、いくら超コンパクトといえども忍ばせるポケットがない。時代劇の浪人のように、腹巻に折りたたみ傘を差し込んでおくならば別だが、現代人のわたしにはできない。つまり、打つ手がないということだ。

 

それでも刻一刻と出発時間は迫るわけで、傘を持って出るか置いていくか、決断の瞬間がおとずれた。

(・・よし、置いて行こう)

アスファルトはカラカラに乾いている。そして雨は一滴も降っておらず、あわよくば天気予報を覆すことができる。傘などなくとも、フードをかぶればどうにかなるはずだ――。

 

 

どんよりとした灰色の雲が空を覆っている。そして今、電車の窓ガラスに二本の線が描かれた。あ、三本になった。

(・・雨か)

とうとう雨が降り出した。とはいえまだポツポツ程度のため、通行人らのほとんどは傘をさしていない。このくらいなら大丈夫である。

 

数駅通過したところで、窓ガラスの線が20本を超えた。小雨とはいえ、確実に雨が降っていることを示している。このまま雨足が強まれば、まずいことになる。

わたしは祈るように窓の外を眺めた。どうか、これ以上は降らないでもらいたい――。

 

そして下車駅へと到着した。ホームからの目視では雨は確認できないが、遠くに傘をさした通行人が見えるため、雨が止んでいないことは間違いない。さて、どうしたことか。

とりあえず改札口を出ると、わたしは空を見上げた。そしてフードを目深にかぶると、思い切って走り出そうとした、その瞬間。

(イテェェェ!!!!)

そうだ、わたしは半月板を傷めたいたのだ。片足を引きずりながら歩いていたにもかかわらず、フードをかぶったら別人になるとでもいうのか。そんなはずはない。

 

危うくつんのめりそうになったところを、なんとかバランスを立て直して踏ん張った。それから改めて、ゆっくりと足を引きずりながら、小雨の練馬区を歩き始めたのだ。

あぁ、膝さえ怪我していなければ、こんな雨どうってことないのに――。

 

 

結論、めんどくさがらずに折りたたみ傘を持って出るべきであった。

 

Illustrated by 希鳳

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