純正が美しいわけではない、ピアノ調律の醍醐味

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我が家にピアノがやってきて8か月が過ぎた。

 

ピアノ購入後の「無料調律サービス」とやらが付いており、期限は購入から半年以内だったはず。

しかしコロナのおかげで、半年過ぎてもその権利が失われずに済んだ。

 

さすがに真冬(乾燥しすぎるとピアノの木材部分に影響が出るらしい)、梅雨(高湿でサビや腐食がおこる)、真夏(よく分からないが、確実に影響がありそう)と、乾燥や高湿の影響を受けるシーズンを過ごしたわけで、ここらで健康診断をしてあげようと実施に踏み切った。

 

 

今日は朝から大忙しだった。

 

起床後まずはトイレ掃除をした。

さらに室内の床やソファ、バスルームまで磨き上げた。

最後に肝心のピアノを専用のクリーナーでピカピカにしてやった。

 

――こんなに急いで見栄を張るくらいなら、日ごろから少しでもやっとけばいいのに、と誰もが思うのだが、なぜ人はやらないのだろう

 

ついでに家主もシャワーでキレイにし、調律師の訪問を待った。

 

 

調律師が室内へ入ろうとした時、一人暮らしならではのアクシデントがあった。

 

ウチの床は大理石でできている(遠い目)。

よってスリッパ的なものが必要だ。

 

しかし我が家に他人が踏み入ることはないので、スリッパ的なものの用意はない。

 

仕方なく未使用のクロックスを引っ張り出し、念のため水洗いしてから差し出した。

 

男性ならそのままでもよかったが、今回は女性の調律師だったので、さすがに

「裸足でどーぞ!」

とは言えなかった。

 

女性に優しい私。

 

 

実家のピアノはグランドピアノ。

その調律は何度も見てきた。

しかしアップライトピアノの調律は初めてだ。

 

ピアノの上部が開くので、そこから手を突っ込んで調律するのかな?と思っていた。

すると女性調律師はフロント部分を掴んでボコッと外し、軽々持ち上げ布にくるんで床に置いた。

 

――意外と軽いんだ、あの盾みたいな部分

 

丸裸のフロント部分から無数の機械仕掛けのツマミが現れた。

無数じゃない、88個だろうな。

ピアノは88鍵なんだから。

 

そして早速、調律が始まった。

 

 

作業を凝視するのも悪いかなと思い、私は背中を向けて自分の仕事を始めた。

 

しかし俄然気になるので聞き耳を立てる。

 

手順としては、基準となる音の周波数を合わせ、そこから1音ずつ音を上げながら、音のうねり?ゆらぎ?を減らしていく作業が続く。

 

ピアノの鍵盤には長細い木材(ハンマー)がくっついており、鍵盤を押すことでハンマーが弦を叩き、音が鳴る仕組み。

 

ほとんどの弦は各鍵盤から3本ずつつながっている。

しかし2本や1本のところもある。

詳しくは分からないが、低い音は弦が少なく、高い音は3本つながってる。

 

そしてそれぞれの弦の留め具?を、チューニングハンマーと呼ばれる専用の道具でひねって、音のうねりを調整する。

 

つまり、鍵盤を押して音を出しながら、ハンマーを動かして弦同士の音を整えていくのだ。

 

 

作業が進むにつれ、私は不思議な現象に気がついた。

 

単音ではなく和音(2つとか3つの音)で音を出したとき、微妙にうねりがある。

ゆるーーいハウリングのような。

 

――なにこの現象

 

3度の和音と5度の和音、たまに4度の和音という感じで、ゆるやかなうねりが私の耳に残る。

 

和音で確認する作業を1オクターブごとに繰り返していく。

 

(なんでうねりがあるんだ?これはちゃんとチューニングできていないんじゃないか?)

 

ソワソワが止まらないなか、3オクターブ目で私はあることに気付いた。

 

うねりは、3度、4度、5度とそれぞれ微妙に異なる。

しかし、オクターブで聞くとどれも同じうねりを繰り返している。

 

ゥワンゥワンゥワン・・

 

この「ゥワンゥワン」が、5秒間で3~5回発生する。

その回数が和音によって同じなのだ。

 

(もしやこれは、大発見では?)

 

ふと、かつて音大受検のときに学んだ「平均律と純正律」という言葉を思い出した。

 

よく覚えていないが、ピアノは純正律では合わせないらしい。

 

・・・。

 

2択で平均律が残るが、ピアノの調律は「平均律」という方法で調律される。

これはたしか、オクターブ12音で隣り合う音は、すべて同じ周波数比になるという方法(のはず)だ。

 

お勉強の知識でいくと、純正律は濁りのない美しいハーモニーが出せるため、管楽器や弦楽器で用いられる調律方法。

しかし基準の音から転調した場合、ひどいうねりが生じることになる。

よって、転調が頻繁に行われるピアノは、平均律で音を合わせるらしい。

 

さらに「音の響き」というのも、調律でコントロールできる。

たとえばコンサートホールなら、ホールの中央で最も美しく響くようにセットする。

 

曲のプログラムによって芳醇な響きを持たせたい場合は、ピッチの範囲内で若干低く合わせる。

 

軽やかな響きを出したいなら、その逆。

 

ピッチがズレない範囲内で、微妙なうねりを意図的にひっぱり出すことで、それが音の響きにつながるのだ。

 

(・・多分)

 

 

結局なにが言いたいかというと、機械的に音程を合わせる(周波数を合わせる)ことで生まれた音だけが、美しいというわけではない、ということ。

 

顔面をフル整形した女性の顔はたしかに美しい。

人工的に削り出された、まるでお人形のような美しさだ。

 

しかし、それだけが「美しい」の基準になるだろうか。

左右対称であることは美しいかわりに、なんとも無機質で乾燥した印象を与える。

 

音楽を聴くということは、音程やリズム、アーティキュレーションが正しいかどうかを審査することを目的としていない。

 

音楽を聴いて、心にどう響くのか。

 

ときにはわずかな音のうねり=不協和音が、音楽の持つメッセージを後押ししてくれる場合もある。

 

涙を誘う音色というものは、必ずしも美しく澄み切った音とは限らない。

微妙にゆらぐ不協和音が、傷ついた心を鷲掴みすることもある。

 

――ピアノの調律って奥が深いな

 

でも私は今日、和音によってうねりが一定であることを突き止めた。

よって、そのうねりの回数さえ分かれば自分でも調律ができるんじゃないか、つまり、調律師になれるんじゃないかとほくそ笑んだ。

 

(いつ無職になってもおかしくないこのご時世、手に職をつけることは大切だ)

 

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2件のコメント

ピアノ調律技能士なる資格は1~3級まである。
実務経験または専門学校卒+学科と実技試験、
グランドピアノを調律できるのは1級のみ、
このブログを読み今ウキペディアで調べて知った!

ピアノを調律できる社労士はなかなかいないと思う。

・・・。
課程が長すぎてとても挑戦する気になれないことがわかった。

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