結局のところ、一周回って「デジタルトランスフォーメーション」ということでいいのだろうか。
デジタル化の急速な普及により、アナログでなければ対応できないことも起こりうる。
例えるなら、プログラムのバグをアナログで修正するかのような。
*
今日は遠方から友人がやって来た。眼科で目の検査とコンタクトを作るためだ。
わたしの主治医は腕がいいだけでなく、美人で若々しい。
本日も御多分に漏れず、
「ねぇ、あの先生って同い年くらい?」
と、友人から尋ねられた。
実際はわたしより10才ほど上だが、さすがは美魔女。毎度かなり若くみられるので、紹介したわたしも鼻が高い。
どんな場合でも、自分が紹介した相手が褒められるのは気分がいい。
「あの人、仕事できるね」
なんて言うのは当たり前。できない人間を紹介するはずがないのだから。
その上で、
「美人だよね」
「スタイルいいよね」
「雰囲気あるよね」
「オシャレだよね」
などなど、本業と関係ないところで褒められると、他人事にもかかわらず上機嫌となる。
仕事はできて当たり前。そこにプラスして自慢できるところがあるからこそ、わたしが自信を持って取り次ぐのだ。
さて、そろそろ検査も終わりお会計という頃。友人が青い顔をして診察室から出てきた。
「どうしよう、現金が足りない」
都心の飲食店や衣料品店は、ほぼどこでもクレジットカード決済が導入されている。
最近ではスマホ決済もかなりの率で取り入れられているため、キャッシュレスが当たり前になりつつある。
しかし、街中のクリニックではまだまだ現金払いが主流。
友人は、クレジットカードで支払いができるものと思い、多くの現金を持ってこなかったのだ。
通常の診察料であればさほど高くはない。だがコンタクトレンズを買うとなると、量にもよるが3万円、4万円の出費となる。
ーーはるばるコンタクトレンズを買いにやってきて、みすみす手ぶらで帰すわけにもいくまい。
わたしはスクッと立ち上がると、
「家から財布とってくるから、待ってて」
と言ってクリニックを飛び出した。
わたしは財布を持ち歩かない主義者だ。よって、本日も現金など持っていない。
しかしどうにかして現金をつくり出さなければならない。
前回と同様に、「医師や看護師の財布から現金を引き出しPay Payで送金する」という荒業が頭をよぎるが、かかりつけのクリニックでさすがにその勇気は出なかった。
代わりにわたしが、現金を生みだすキャッシュディスペンサーになる覚悟を決めた。
通りへ出るとタクシーを捕まえ、自宅まで飛ばす。決済はもちろんモバイルスイカ。
家に入ると財布をかっさらい、すぐさまタクシーを拾いクリニックへ戻る。決済はもちろんモバイルスイカ。
タクシーも電車もバスも、飲み物も食べ物も買い物はすべてスマホ決済のわたし。
このデジタル最先端とも言えるわたしが、フィジカルを駆使して現金を調達するという、超アナログな方法をとるとはーー。
「ありがとう~、今度あった時に返すね」
待合室でのんびり待っていた友人に3万円を渡す。それを持って友人は無事、会計を済ませた。
*
別に頼まれたわけではないので、わたしが自宅まで現金を取りに行く必要はなかった。
だが遠路はるばるやって来た友人を思うと、あの場で現金を生み出せる人間はわたししかいないわけで、わたしが動かなければ事態は1ミリも変わらない。
そしてわたしは、自らの意思で行動に出た。
その結果、友人は現金を手にすることができた。
ーー友情という名の錬金術だな。
デジタル化が進み、日常生活のあらゆる場面でキャッシュレスが当たり前となりつつある。
だが、店側にデジタルを受け入れる態勢がない場合、どんなに大金持ちであろうが、資産100億円あろうが、単なる貧乏人と同じ扱いとなる。
いかにして現金を生みだすか。
電子マネーの行き来で解決できればしめたものだ。しかしそれが許されない場合、やはり人間が走るしかない。
現金のあるところまで人間が走らなければ、欲しい商品を手に入れることはできないのだ。
デジタルトランスフォーメーション過渡期の今、バグの修正に「アナログが必要」となる可能性があることを、覚えておかなければならない。
Illustrated by 希鳳
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