汚女子、なんて言葉が流行ったことがあるけど、アタシのそれはちょっと違う。
「いやいや同じだろ!」
ほとんどの人がそう言うけど、自分の中では全く異なるキタナサなんだと伝えたい。
ーーそんなアタシは、風呂に入らず7日が過ぎた。
「7日も風呂に入らないなんて、不潔すぎる」
そりゃそうだ。一般的にはそう思うかもしれない。だけど、不潔の定義と風呂へ入らないこととが、アタシにはリンクしないだけ。
たとえば部屋なんかビックリするほど物がなく、トイレもバスルームも毎日掃除してる。フローリングには髪の毛の一本も落ちてないし、室内のいたるところにファブリーズとコロコロが配備されてる。
鏡は常に磨いてある、キッチン周りの洗剤は4種類も揃えてある、シャンプーやボディソープの容器の裏だってヌルヌルしない。
ほらね、いわゆる「汚女子」とは違うでしょ。
アタシは漫画やイラストを描くのが仕事で、家の外へ出ることがほぼない。打ち合わせはウェブだし、そもそも打ち合わせることなんてないし。
こうして毎日、デスクに向かってイラレを開き、黙々と絵を描き続けてる。
そもそもめんどくさがりな性格が祟り、着てるものの脱ぎ着すら面倒。さらに行動範囲といえば、デスクを起点にトイレか冷蔵庫、たまにバスルーム。歩数に換算しても数十歩程度なわけで、必要以上のエネルギーを使わないどころか汗なんて一滴もかかない。
「臭そう」
これがよく言われるセリフ。だけど裸でいるわけじゃないし、クサくないというより服の柔軟剤の匂いが勝って分からない、が正しい答えだと思う。今も、胸元から漂うはピンクフローラルのいい香りだし。
果たして7日間風呂に入らないと、どんな変化が体に起きるのかを観察してみた。なんならこれをもとに、汚女子じゃないけど「汚女子」ってタイトルで連載してもいいくらい。
まずは困ることから。
何かが目に沁みて目が開けられなくなること。風呂だけじゃなく顔も洗わないアタシにとって、3日目くらいから悩まされる現象がコレ。例えるなら、日焼け止めを塗ったとき汗で流れて目に入ると痛くて目を開けてられない、アレに似てる。
だけど外出もしないわけで、日焼け止めなんてこの一年使ってない。あと先週、最後に顔を洗ったあとに美容液や保湿液なども塗ってない。そもそも顔や体には何も塗らないことにしてるから。
ーーとなると、この目に沁みる痛みはいったいなんだろう。
思い当たる節といえば汗しかない。とはいえ汗という汗は一滴もかいてないわけで、いまいちピンとこない。でも何日も顔を洗わないでいると皮脂でベトベトになるから、わずかな汗がその脂に乗って目に入るのかもしれない。
調べてみると、汗が皮膚の表面に出るまでの間に、ナトリウムや塩素といったミネラルを吸収する仕組みになっており、それらが吸収されなかった汗は塩分を多く含んでいるため、目に入ると沁みるのだそう。
さらに運動不足だと、汗腺が鍛えられないから「わるい汗」しかかけないらしい。
まさにビンゴ。
一日数十歩しか歩かないアタシは、確実に運動不足。指先以外、なるべく動かさない生活を送ってるんだから当然だけど。
そして汗が目に沁みるようになったら、ティッシュを水で濡らして目の周りを拭く。それだけであの痛みはどこへやら、目がパッチリと開くようになる。
こうやって何日でも、目の周りだけ拭いてれば仕事は続けられるってわけ。
次にわりと便利なこと。
髪の毛がボサボサなのが許せないアタシは、毎日ブラッシングをする。美容師の友達に、
「髪の毛は毎日梳(と)かしたほうがいいよ」
と言われ、業務用の立派なブラシを買わされたことがきっかけ。せっかくだからそのブラシで毎日、ショートヘアのくせに髪の毛を梳かしてる。
風呂に入らず3日ほど経つと、髪の毛に重みが出てくる。5日もすると、かなり重量感のある髪の毛になる。それでも毎日ブラッシングを続けると、ワックスでも付けたかのような自由なヘアスタイリングが可能になる。
ただし髪の毛自体が脂まみれで重たいため、オールバックのような寝かせる系の髪型はできても、ふんわりと盛る系は無理。
鏡を見ると、そこにはペットリと頭の形に髪の毛が張り付いた、七三分けのアタシがいる。コミカルでシュールで、近未来的な生命体に見えなくもない。
ていうか、そもそもホームレスたちは「体がクサイ」というより「着ている服や髪の毛がクサイ」んだと思う。看護師で、ホームレス担当の友達が言ってた。
「服脱がせて髪やヒゲ切れば、かなりニオイ落ち着くんだよね」
あと、これも誰かが言ってた。
「煙の匂いが鼻に残るのは、鼻毛に煙の粒子が付いているから」
なるほど一理あるかも、と納得した覚えがある。
結局、一週間経っても着てる服がクサくないからアタシは風呂に入らない、ってことかな。
さすがにホームレス臭がしたら風呂に入る。けど、まだそんな臭いは放ってないから、風呂放棄の記録更新を続けてるだけで。
それより何より、アタシには元自衛官としてのプライドがある。
たとえば、山の訓練で10日間は風呂に入らないことを考えると、日常的にそういう状況を想定しておくのが当たり前。
あとは有事の際、風呂に入れないくらいでオタオタしないためのベース作り。
ーーとどのつまりは、汚女子、上等。
(完)
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