大開運

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期待を裏切る、というと期待外れを想像しがちだが、逆の意味で期待を裏切られることほど、強烈なインパクトを与えることもないだろう。

 

大体わたしは世の中を舐めているため、ちょっとやそっとのことでは驚きも感動もしない。

ましてや和菓子など、茶を飲む習慣がないばかりか、あんこが大嫌いなわたしにとっては忌々しい存在でしかない。

およそ9割の和菓子があんこと手を組んでいるため、口へ運ぼうにも門前払いを食う。

 

ところがーー。

 

 

新年度を迎えてからというもの、わたしはツイてない。肋軟骨を折るやら、試合で秒殺されるやら、仕事の伝達ミスでイライラするやら、やることなすことどれも上手くいかない。

 

そんなわたしを見かねた友人が、縁起の良さそうな和菓子を送ってきた。包装紙には「開運堂」の文字。

ーー本当に運が開けるんだろうな

友人の親切心を試すかのように、わたしは呟く。

 

開運堂と書かれているので、適当に破るわけにもいかず、丁寧にセロハンテープを剥がし開封していく。

顔を見せた白い箱には再び「開運堂」の印影が。

 

ーーそこまで開運をアピールしといて、こちらは和菓子キライだからな。残念ながら。

 

友人は、最近ツイてないわたしを憂い、めでたい名前のお菓子を送ってくれた。さっさと運を開けよ、と。だがよりによって和菓子とは、ヤツはチョイスをミスったか。

 

フタを開けると、6本のMONO消しゴム大の四角が現れた。これは完全に和菓子の典型だ。

言っちゃなんだが、わたしの大嫌いな落雁(らくがん)だと思われる。

 

落雁とは、砂糖と水と水あめをこねくり回して固めた干菓子のこと。

触り心地は粉っぽく、軟弱な「チョーク」のよう。そしてとても軽いため、つまみ上げた時のショックは半端ない。

さらに、口に入れるとすぐさま口内の唾液を吸収しイラッとする。そして噛めばホロホロと崩れるように消えて無くなり、食べごたえなどまったくない。

おまけにほぼ無味。そもそも和三盆だかなんだか砂糖でできているため、甘いといえば甘いのだが。

 

しかしよく考えてみてほしい。

砂糖をそのまま食べる日本人がいるだろうか?チョコレートにしろ、ケーキにしろ、憎きあんこにしろ、砂糖+何かでできている。

よって、水や水あめごときで固めた砂糖など、美味いはずもない。

 

そんな溺れるほどの先入観に浸ったまま、MONO消しゴムの包みを剥がした。

 

ーーほら、やっぱり。

 

想像どおり、落雁そっくりのMONO消しゴムが出てきた。大きさがまさに消しゴムだが、書道で使う「墨」にも似ている。

心優しいわたしは、友人にお礼を言うためにも、諦め半分で消しゴムをかじった。

 

(ぽりぽり)

 

もう一口、かじる。

 

(ぽりぽり・・)

 

ーーう、うまいじゃないか。

これは落雁どころか、その辺の菓子をひっくるめてもトップクラスに美味いではないか!!

 

見た目は落雁なので、どうせチョークのような噛みごたえと唾を吸いとる最悪な菓子だと決めつけていたが、いやいやどうして。

パクパク一本食べきると、今度は下の列の消しゴムに手を伸ばす。

今食べたものは白色で、中に砕いた胡桃が入っていた。しかし下の列の消しゴムは焦茶色をしていて、黒糖の香りがぷ〜んと漂う。

こちらも早速味わう。

 

(ぽりぽり・・)

 

うん。黒糖の自然な甘みと香りがわたしを沖縄へと誘(いざな)う。

消しゴムほどの大きさゆえ、次々と手を出すうちに全部食べ終えてしまった。

 

不思議な和菓子で胃袋を満たされたわたし。そのわたしに残されたものは、驚きと感動と、運が開けたような開放感だったーー。

 

 

ひょっとするとこの落雁もどきは、これが狙いなのかもしれない。

 

「これは黒板に文字を書くあのチョークと、MONO消しゴムを足して2で割ったような、何てことない和菓子ですよ。えぇえぇ、期待などせずパクッと一口で召し上がってください。謙遜ではなく本当に、大したものではないんで。実はここだけの話、『つまらないものの代表』を狙ってるんですよ、だから、どうぞお気になさらずさっさとお召し上がりくださいな」

 

目の奥をキラリと光らせた店主が、そう言いながら消しゴムを勧めてくる様子が浮かぶ。

 

なるほど、確かにどこをどう見ても大したことはないつまらない和菓子だ。それが口に入れるとどうだ、一気に豹変するのだ。

 

ーー期待を裏切る、とはこういうことか。

 

 

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