クリスマスにちなんで、人間が繰り広げる壮大なヒューマンラブストーリーについて触れようと思う。
人間、と限定するからにはかなり掘り下げた内容にしなければならない。
そもそも地球誕生は46億年前。
そして我々人間、というより「ヒト」という霊長類の共通祖先は、今から6500万年前に地球上に現れたとされる。
日本霊長類学会会長・中道正之先生の著書「サルの子育てヒトの子育て」によると、
「46億年を1年という『ものさし』に置き換えれば、1月1日が地球誕生で、12月31日の大みそかになってやっと人の祖先とチンパンジーの祖先が分かれたことになります。」
「霊長類の共通祖先が地球上に現れた6500万年ほど前も、1年のものさしで測れば、クリスマスも終わり、新年まであと数日を残すだけの12月27日ごろになります。」
とのこと。
地球誕生からの長い歴史の尺度で見れば、まさに今日(12月25日)はヒトはおろか、霊長類の共通祖先すら出現していないわけだ。
そして本を読み進めると、友人の発言があながち的外れではなかったことを裏付ける内容にぶち当たった。
友人は、私の特徴(セールスポイント、チャームポイント)をこのように評価する。
「おまえの真骨頂は道具をつかうことじゃなくて、ただ単に蹴るとか、殴るとか、しっかり握って引っ張るとかだからね」
「おまえからヤバさを抜いたら、引っ張る力しか残らねーっての(笑) あとは誤差よ」
「柔術でも大事でしょ、崩すことは。そのあとの技とかはオマケで、おまえは引っ張るとこがメイン」
このように、圧倒的に「しっかり握ること」「引っ張ること」についての評価が高い。
そんな単純動作じゃなくて、もっとハイレベルで美しい動きはないものかと頭を悩ませていたところ、中道先生はこうおっしゃる。
「ヒトの赤ん坊の手のひらに、あなたの指で軽く振れてみてください。赤ん坊はあなたの指をしっかりと握ります。」
「このように、手のひらへの刺激によって、赤ん坊が指を曲げて、ものを握ることを把握反射と言います。ヒトの赤ん坊もヒト以外の霊長類の赤ん坊も等しく生まれながらに持っている能力です。」
「誕生時から母ザルにしがみつくことが生存のために不可欠なニホンザルの赤ん坊、それほどでなくても、母にしがみつくことが生きていくためには大事なゴリラの赤ん坊が、体の大きさの割には大きな手足を持っているということは適応的なことなのです。」
私の手は特別大きくはないが、どうやら「しっかりと握る」ことは霊長類の特徴的な能力といえる。
そして極めつけはこれだ。
(霊長類の共通祖先が樹上生活を始めたことについて)
「4本の手足に握る力を獲得した霊長類の祖先は、このようにして、枝先まで行って、栄養豊かな新葉を食べることができたはずです。」
「だから、霊長類の共通祖先において、ものを握り、つまむことができる手足の獲得と樹上生活は深く結びついているのです。」
自分たちを襲う大型の肉食獣から身を守ることができ、樹木に成る実や花、葉を食べて暮らす方法として「樹上生活」を発見した、我らが遠い祖先。
その生活を維持するためにも、枝から落ちないように握ることや葉っぱや実をもぎ取ることができる「特徴的な手足の獲得」というものが、非常に重要なファクターだったといえる。
つまり友人が評価する私の身体的特徴は、まさに霊長類に与えられし貴重な能力であり、誇るべき部分だったのだ。
握る力や引っ張る力を恥ずかしいなどと思った自分自身に腹が立つ。
これこそが、人類が誇るべき偉大な能力ではないか。
そんなことにも気づかず見た目ばかりを気にしていた私は、ご先祖様に顔向けができないほど愚かでつまらない人間であったと反省する。
そしてクリスチャンでもない私は、クリスマスだからといって特段イベントには招かれない。
自宅で一人、昨日お土産にもらった「薄く伸ばしたモチのシート」を大事に抱えている。
やや硬くなったモチをちぎっては食べ、ちぎっては食べ、もうほとんど食べ尽くしてしまった。
繊細でふわふわのケーキなど、ヒトの能力を衰退させる悪魔の食べ物だ。
ちぎり甲斐と噛みごたえのある硬くなったモチシートこそが、ヒトが食べ続けるべき理想的な食糧だろう。
メリークリスマス。
Illustrated by 希鳳
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