滅多にないのだが、たまにWebミーティングを行うと色々な気づきがある。
日頃から自分の顔を見る習慣はないが、仮に見るとしたら鏡に映る静止画のような自分なわけで、表情筋を巧みに操りながらペチャクチャと喋る自身の顔は、正直あまり見慣れないもの。
そんな「動く顔面」を強制的に観察させられるのが、Webミーティングなのである。
(・・なんか引きつって笑ってるように見える)
画面上に小さく映る自分の顔を見ながら、嫌々笑っているわけでもないのに口元が引きつっていることを発見したわたし。何がいけないのか詳細を確認しようと、自分が映るセルフビューを拡大したところ、下唇が微妙に右側へズレているではないか。
見た目では下唇が上唇よりも若干——数字にして数ミリ程度ズレているだけだが、実際には唇というよりアゴ自体が右へズレている様子。確かに、右側の歯だけが嚙み合っている——。
ならばと、左側の歯を噛みしめるように口を閉じてみると・・あら不思議。唇の上下が同じ幅になったではないか。
(なるほど、こういうからくりか)
こうなると、もはやWebミーティングどころの話ではない。いかにして口というかアゴを中央に置いておくか・・の試行錯誤に挑むようになった。
そもそも、なぜ右側の歯を嚙みしめる癖がついたのか——問題はここにある。思い返せば数年前、持ち前の強靭な咬筋により右上の奥歯(7番)の歯根を骨折させたわたしは、泣く泣く第二大臼歯を失った。
その影響で嚙み合わせに変化が現れたことには気付いていたが、そこまで違和感を覚えるわけでもなく、咀嚼や力を入れる際に影響が出ることもないため、さほど気にせず日常生活を送っていた。
ただし、食べ物を噛む際には(ボンゴレビアンコを食べている最中に奥歯を折った)トラウマからも、なるべく左側の歯を使って砕いてすりつぶすようになった。無論、物理的にも右側は歯が一本足りないため、「よく噛んで味わう」という観点から左側をメインに咀嚼するのは自然といえば自然なのだが。
このような流れからも、左側にアゴがズレるのは理解できるが、よりによって右側にズレるとは何事か——。
画面に映る自分の顔を凝視しながら、口を閉じた際には意識的に嚙合せを左へズラす練習を繰り返すわたし。やはり違和感がある——。それでも、右で嚙合わせると明らかに顔が歪むため、なにがなんでも左へ着地させなければならない。
そうこうするうちに、なんとなく左で嚙合わせることに慣れてきた。加えて”左だと違和感を覚える原因”まで突き止めた。それは「左の奥歯同士がぴったりとフィットしない」という物理的な事情だった。
歯が尖っている・・というわけでもないが、平面で接地するべきところを一部分のみで接触しているため、状態が不安定となるのだ。おまけに、上の前歯の裏に下の歯が触れることから、なおさら「嫌な感じがする」のである。
(もう少し、下あごを後ろへ引いて噛み合わせてみるか)
意図的にフィットする咀嚼を生み出そうと、形式上はミーティングに参加しつつも脳内は嚙み合わせのことでいっぱいの状況で、わたしは必死に「正しい嚙み合わせ」を探った。
これは見た目の問題にもかかわるが、なによりも左右均等に力を加えられるポジションを知らなければ、生きる上で不利となる。さらに「慣れ」も関係することから、今まで普通だと思っていた”右側で嚙合わせる感覚”を左側メインに矯正するには、繰り返し覚え込ませる必要がある。
(・・ここか?いや、もう少しこっちか?)
感覚的にはものすごく左寄りな嚙合せだが、画面を見ると顔の中央に口と顎が並んでいるわけで、本来はここがセンターラインなのだろう。ならばこの違和感に慣れなければならない——。
そうこうするうちに、およそ一時間におよぶWebミーティングは終了した。
いったい何の話をしたのか、そしてわたしは正しい相槌を打てていたのか、記憶にもなければ自信もないわけだが、嚙合せに関しては「ここが中央」というポジションを発見したので、効率的なセルフ歯列矯正ができたことに満足するのであった。
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