カップ面食らう

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わたしはいま沖縄にいる。神出鬼没がウリなのでとくに驚かれることもないが、東京からはるばるここまでやって来たのだ。

いや、なんか偉そうなことを言ってしまったが、実際は羽田空港から飛行機に乗り、気づいたらに沖縄へ着いていたわけで、はるばるかどうか実感がないので分からない。

 

そして12月の沖縄がどんなものなのか、気温を数字で見る限りは寒くも暑くもないという感じだが、実際はどうなのか。

――まったくわからない。

ホテルから一歩も外へ出ていないため、今日一日、本当に沖縄にいたのかさえ怪しいところだ。さらにカーテンを閉めきって仕事をしていたため、外が晴れだったのか曇りだったのかすら分からない。

とはいえカーテンの隙間から、さほど眩しくもない日差しが見えたので、今日の沖縄は曇天だったと思われる。

 

「いまどこにいるの?」

「沖縄」

「それは分かってる。沖縄の何市にいるの?」

「・・・わからない」

 

これは友人との昨夜の電話での会話だ。しかし奴も意地が悪い。地理に疎(うと)いわたしに向かって、何市にいるのかなどと尋ねる必要はないだろう。そこはざっくりと「沖縄」でいいじゃないか。

さすがに東京にいるときは、地名が重要だということはわかる。なんせ赤坂も八丈島も同じ東京都なわけで、地域を限定したほうが会話がスムーズにいくからだ。しかし今回は東京にいる友人とのアイスブレイクというか無駄話の一環なのだから、「沖縄」というだけで十分じゃないか。

 

というわけでわたしはいま沖縄にいると思うが、それ以上の情報はわからないため、追及するのはやめてもらいたい。

 

 

今日一日でもっとも印象に残ったことといえば、カップ麺が美味かったことだ。滅多にカップ麺というものを食べないわたしだが、まれに食べたくなる日がある。そんなときはたいてい日清食品のカップヌードルを買うのだが、とても美味いとはいえない代わりに、まずいとも感じない不思議な安定感があり、たまに食べる分には大満足。

しかし今回は、カップ麺メーカーランキング第4位のエースコックを選択してみた(ちなみに第1位は圧倒的なシェアをほこる日清食品)。メーカーによってそこまで大きな違いがあるとは思えないが、パッケージに惹かれて手を伸ばしたのが「水炊きの匠がつくる とり田監修・濃厚鳥そば」というやつだった。昨夜、ホテルへ戻る途中のコンビニで買ったので、その時の気分がこれだったというだけの理由だが。

 

真っ昼間から部屋に備え付けのポットで湯を沸かすと、カップ麺へなみなみと注ぐ。この作業、日々ティファールを駆使するわたしの得意技であり、まるで自宅にいるような錯覚をおこすほど馴染みのある動作だ。

「熱湯を注いで2分待て」とあるので、その間に仕事をちょこちょこさばきつつ時間が経過するのを待った。するとたまたま見たネットニュースで、

「前沢さん、宇宙へ出発」

という見出しが目に留まった。あの人、とうとう宇宙へ行くんだ――。準備段階ではさんざん叩かれたり、面白おかしく取り上げられたりしていたため、それに釣られてわたし自身も色眼鏡で彼を見ていた気がする。

だが今、立派な宇宙服に身を包んだ前沢氏は、民間人としては日本初のISS滞在者となるべく宇宙へ飛び立ったのだ。その記事を読んだわたしは、なんだか冷たいものが体内を通り過ぎる感覚を覚えた。

 

――我々は置いて行かれたのだ。事情も経緯も事実も知らずに、ただただマスコミの扇動に乗って前沢氏に好奇の目を向けていた我々は、気づけば前沢氏に大きな差をつけられたのだ。これは金の問題なんかじゃない、先へ進める人間かそうじゃないかの問題だ。

 

愚かな日本人は、誰かが新しいことに挑戦しようとすると必ず足を引っ張る。冷ややかな視線を送り、嘲笑い、陰口をたたき、成功するはずがないと言い聞かせ、同調する仲間を探し求める。そしてそれをマスコミがグイグイ推す。

こうして同調した人間たちは、挑戦者が成功したときに初めて、その挑戦が正しかったことを知る。ぽかーんとあほ面下げて成功者を見上げる愚かな日本人たち、わたしもその一人なのかもしれない。

 

そんな危機感に浸っているうちに、時間は10分ほど経過してしまった。

(まずい。2分どころか、かなりの猶予を与えてしまった)

慌ててカップ麺のフタを剥ぐと、ズッシリと湯を吸った面が現れた。まぁボリュームアップに関しては、わたしにとっては悪いことではないが。

 

しかし驚いたのは、のびのびの麺になるはずが、さほどの変化が見られないことだった。通常ならばブヨブヨに太ったダルダルの「うどん」を想像するが、この麺はなんというか必要以上に水分を吸収しない作りになっているようで、10分も放置したにもかかわらず、普通に美味いラーメンのままだった。

「鳥そば」というだけあり、ラーメンというよりそばというか、九州ラーメン特有の固さと細さがブヨブヨを防いでいるのかもしれない。とにかく、「カップ麺のくせにやるなぁ」と小突いてやりたい気分になった。

 

 

こうして沖縄での一日が終わろうとしている。そういえば今日は部屋の清掃を拒否したため、人間と会っていないし会話も交わしていない。LINEで通話はしたが、そんなのどこの国にいてもできること。

室内はエアコンが完璧に温度調整をしてくれるわけで、わたしはどこにいるのか、外気がどんな温度なのか、知る由もなければ知りたいとも思わない。

 

ただ、部屋に置いてある「ちんすこう」だけが、本当に沖縄にいることを教えてくれるのだった。

 

サムネイル by 希鳳

 

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