わたしは今日、ロングスカートを履いて出掛けた。といっても、オトコどもが喜ぶようなセクシーなやつではない。GAPで売っているデニム生地のロングスカートで、そもそも購入したきっかけは「やけに寒い日だったから」という単純な理由。
とある日の朝、厚手かつ裏起毛のレギンスを履いて出掛けたわたしは、あまりの寒さにGAPへ逃げ込んだ。そして「さすがにこれ以上ズボンを買うのもなんだから、このままの状態で防寒できるような・・そうだ、スカートを買おう」と思い立ったのだ。
(厚手のレギンスの上にスカートを履けば、冬場における自然な格好といえる。この際、どんな形でも構わないからスカートを買うしかない——おぉ、これでいいじゃないか!)
こうして発見したのが、本日着用しているAラインのロングスカートである。これならば、生地もしっかりしており風も寒さも凌げる優れもの。しめしめ、いい買い物をしたぞ——。
そして今日、わたしはブラジリアン柔術の試合に参加したのだが、試合会場にて更衣室が使えない状況を想定し、どこでも着替えられるようにこのスカートをチョイスした。
加えて、上は「脱げばそのまま道衣を羽織るだけの身なり」で固め、下もスパッツを履いているので個人的には「どこで脱いでも構わない」わけだが、世間一般では”大和撫子なるもの、殿方の面前でズボンを脱いではならぬ”という奥ゆかしい考えが主流であるため、ロングスカートを着用しその中で着脱する・・という戦法に出たのである。
(しかしながら、結果的には立派な更衣室が用意されていたので、スカートの中で着替える必要はなかった)
そもそもスカートを履かないわたしだが、中でもロングスカートというものは過去にも履いた記憶がない。ピアノの発表会などでドレスを着用する際には、当然ながら丈の長いスカートを履くことになるが、そういう特別な装いではなく私服として着る場面において、ロングスカートとは無縁の生活を送っていたからだ。
とはいえ、ヒールの靴を履く苦労を思えば、ロングスカートで歩くという行為に対して違和感もなにもない。しかもデニム素材という完全にカジュアルなアイテムのため、足元はKEENのサンダルにて軽やかに闊歩するのであった。
——とその時、事件は起きた。
試合会場までバスで移動したわたしは、最寄りの停留所に到着したためバスを降りようとした。まずはお年寄りを先に降ろり、最後に満を持してわたしがバスのステップを踏んだところ・・・なんと、予想以上に足が前へ出なかったのだ。わたしとしてはもう30センチほど前に着地するつもりだったが、ロングスカートのせいで——しかも、デニムという強力な素材のせいで、出るはずの足が出なかったのだ。
そしてわたしは、なすすべもなく顔面からアスファルトへ崩れ落ちたのである。とはいえ、先に手をついたのでリアルに顔面で着地したわけではないが、それでも一瞬、周囲は騒然となった。
(なぬっ・・デニム生地のスカートは、歩幅を奪われるのか!!!)
この年になってデニムスカートの恐ろしさを体感するとは思わなかったが、それでも右手に持っていたホットコーヒーをこぼすことなく、しかも顔面や膝を打つことなく着地できたことに、なによりもホッとした。
むしろ、このコーヒーを前のおばあちゃんにぶっかけでもしたら、もっと大変な事件に発展しただろうから、とにかくわたし一人で収まって万々歳である。
*
このような恐ろしい経験をしたわたしは、ロングスカートというアイテムに不信感を抱くようになった。
これが着物ならば言わずもがな、裾が広がったスカートであるにもかかわらず、なぜ歩幅を制限されなければならないのか。おまけに「なんとなく歩きづらい」という感覚は思い過ごしではなく事実だったわけで、たしかに防寒具としては役に立っているが、だからといって事件や事故を巻き起こす可能性を秘めた衣服を、あえて着る必要などないだろう——。
などと悶々としながら、試合会場へ向かうのであった。
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