情報弱者たる友人の、裏の顔

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「どうもメールがうまくいかなくて・・」

「突然、iPadが使えなくなっちゃって・・」

「時代はYouTubeですよ!」

耳を塞ぎたくなるような、これは"間違いなく情弱ビジネスのカモになるであろう発言"を連発する友人は、どんなことにも興味を持つバイタリティー溢れる人物である。その前のめりな好奇心は非常に素晴らしいのだが、いかんせん空回りが過ぎるのだ。

Xもインスタもアカウントはあるが、ほぼ見ることも使うこともしていない。LINEを使い始めたのもわりと最近で、未だに"リアクション"にすら気づいていない。その反面、「YouTubeを始めたら一気に知名度が上がる」と信じているので、ちょっとハードルが高いのである。

 

この手の話をするようになって、早いもので三年が経過した。にもかかわらず中身はそこまで前進していないので、どう慰めたらいいのか言葉に詰まる。それでも、なんとか彼の望みを叶えてあげようと、LINEの使い方を教えたりSNSのアイコン画像を撮ってあげたりと、わたし如きの素人でも手伝える内容であればなんでもフォローした。

だが気持ちの優しい彼は、友人・知人に頼ることをあまり好まない。こちらは本気で「そんな簡単なことなら、いつでも聞いてよ!」と言っている・・いや、むしろ懇願しているのだが、それに対して了承はするものの、決して頼ってはくれないのだ。

その代わり、カネを払ってYouTubeのセミナーやSNSのスクールに通おうとするから、周囲の者は全力で止めるわけだ。そんなところに無駄にカネを払うくらいなら、まずはわたしたちに聞いてくれ——。

 

ところが、彼なりのこだわりがあるのだろう。たとえばメールに関して、高いプロバイダー料を払い続けているにも関わらず「メールが届かない」「カスタマーサポートに連絡しても分からない」と、しょっちゅう嘆いているので、「だったら、とりあえずは無料だしGmailにすればいいじゃん」と提案しても、なぜかあまり聞く耳を持たない。そしてまた「メールがおかしい」「過去のメールが勝手に消えた」などと、毎回同じトラブルに見舞われているのである。

メールがおかしい、iPadの調子が悪い、SNSの使い方がよく分からない——。それなのになぜ、YouTube至上主義に傾倒しているのか。いや、この手のタイプがいるから、ビジネスが成り立つのか。

 

「俺たちは、べつに間違ったことや悪いことをしてるわけじゃないからね。相手の悩みに懇切丁寧に付き合うし、それ以上知りたいのならこの教材を買ってくださいね・・ってだけで」

これは、情弱ビジネスでガッポリ稼いでいる友人Mのセリフだ。そして彼が対象とするターゲットは、まさに前出の友人のようなタイプであり、実際に彼が手を出した教材は、友人Mが取り扱っているものだったりそうじゃなかったり——。

正にドンピシャで“カモ”なのだから、見ているこちらは何とも言えない気持ちになる。客観的には相思相愛で、欲するものと提供するものがマッチしているのだから、いわば”win-win”といえるのかもしれない。とはいえ、なにもそんな高額な費用を払ってまで、言っちゃ悪いが不向きな分野に切り込む必要はないだろう。

 

そんなことが頭をよぎる中、ふと彼の専門分野について知りたいことがあり尋ねてみた。その瞬間、まるで別人のように友人はキラキラと輝き出したのだ。

彼の仕事はいわば研究職であり、控え目にいっても国内トップの経験年数と研究実績がある、プロ中のプロ。そんな彼が話す内容は、われわれがネットで手に入れられるようなチープな情報とはまるで違うもので、にわかに信じがたい場合もある。ではなぜ、彼の意見や研究結果が世に出ないのかというと・・スポンサー企業がつかないからだ。

 

彼の意見はおそらく事実だろう。だがそれを公表すれば、とある分野の企業がダメージを受けること必至なため、「それは面白いアイディアだ、ぜひ商品化しましょう!」と誰もが乗り気でローンチするが、いざ商品開発に着手しようとすると「やはり大手を敵には回せないので・・すみません」といって頓挫するのが常。

——こうして「正義」はビジネスの闇に埋もれていくのである。

 

 

その人がその人たる輝きを放てる人生を送ってほしいし、とくにわたしの友人らには、いつでも前を向いて進み続けてもらいたい。決して、他人の横やりや社会の波にのまれて躓くことのないよう、自らの足で歩き道を切り拓いてもらいたいと思っている。

自身の専門分野について、こうも堂々と明確かつ詳細に語る友人を見ながら、「どうか彼には、この分野でのみ生きてもらいたい」と願うわたしがいた。社会生活というのは、得てしてビジネスが優位になりがちだが、そうであったとしても誰もがオールラウンドのゼネラリストである必要などない。むしろ、ニッチなスペシャリストを数多く掌握するほうが、結果的に質を担保することができるわけで。

 

ネット社会の現代だからこそ、一人から不特定多数への発信が可能となったが、それをうまく使いこなすタイプもいれば、それがフィットしないタイプもいて当然。誰もがこぞってSNSを使っているが、そこに真実があるわけではないのも事実。

というわけで、フィジカル環境で輝ける者たちは、これからもフィジカル環境にしがみつき這いつくばってほしいのだ。誰かに合わせたり時代に迎合したりすることが成功への近道ではないし、それより何より、自分の人生は自分が居心地の良い状態を保つべきだから。

 

Illustrated by 希鳳

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