格闘技にケガはつきもの。
だが私はフィジカルに恵まれているため、柔術と出会ってからの3年間は大ケガとは無縁に過ごしてきた。
人によっては「それ結構なケガだよ」という場合もあったかもしれないが、絶対安静レベルの重症を負ったことはない。
骨折、靭帯損傷、亜脱臼あたりは中ケガの部類。
やはり眼をケガする以外の大ケガなど、私の中ではありえない。
そしてケガからの回復が早い。
これは自分自身でも驚くほどのスピードで回復する。
受傷時点で全治2週間のケガは2日、全治1か月は5日程度。
とくに、寝て起きて明らかに回復しているときは生命の神秘を感じる。
さらに私のフィジカルは異常なまでにたくましい。
筋トレなどしなくてもそのへんの男子よりゴツい。
驚いたのは、コロナ自粛期間中2ヶ月ほど練習をしなかったにもかかわらず、自粛明けの練習でビンビンに動けたこと。
スピードだけではない、パワーが全く落ちていなかったのだ。
これらの特徴が遺伝的なものなのか突然変異なのかは不明だが、細胞の機能解明をする価値があるのではないかと思う。
とそこへ、すかさず引きこもりのポールが口をはさむ。
「クマは3~4か月じっとしていても筋力の衰え方が緩やかなんだよ。
あいつら、ろくにメシも食わずにただ寝てるだけなのに」
なるほど、そのとおりだ。
クマの細胞のメカニズムを研究しているアメリカのグループが発表した論文によると、
「クマの脂肪組織が冬眠中にほとんど変わっていたのに、筋肉の細胞組織はまったくと言っていいほど変化していなかった」
という事実を突き止めた。
この筋肉の細胞組織に関する詳細の応用は、アスリートにとどまらず、寝たきり状態の人や宇宙飛行士にもいかせる可能性を含んでいる。
そんな私が、ケガの部類にも入らないほどの微細なケガをした。
一つはすり傷、もう一つは打撲。
こんなものケガとは呼ばない、蚊に刺された程度の異変だ。
出血を伴うすり傷に対して、職業消防士の先輩がすぐさまティッシュを差し出す。
出血はさほどしていないのだが、コンタクトスポーツにおいては完全に止血させ、他人に付着させないのがマナー。
また、マットには雑菌も多いため傷口を消毒するほうがいいだろう。
「血のついてるとこ見せて」
消防士が受傷部位を確認し、消毒液を吹きかけようとする。
彼が手にしているのは、入室時に手を消毒するエタノール。
明らかに、傷を消毒するオキシドールなどではない。
しかしキャリアの長い消防士が処置を間違うはずがない。
昨日も、川で溺れる子供を助けたと言っていた。
信じよう、彼の職業魂を。
(ギャァァァー!!!)
焼けるような痛みがすり傷を襲う。
逆の手ですり傷の手を強く握りしめ、地団太を踏みながら痛みをこらえる。
「え?切れてたの?」
消防士は、誰かの血液が私の手に付着したのだと思ったらしい。
そこで、血液をふき取ったあとに消毒用エタノールで消毒をしたわけだ。
「ごめんごめん」とはにかみながら謝る消防士は、本日めでたく黒帯となった。
※黒帯・・・最高実力者、企業でいうところのCEO
そして打撲のほうだが、こちらは地味に痛い。
正座のような体勢で空中を舞い、ヒザから着地する際に強打した。
つまり自爆。
相手を抑えながらのポジションチェンジのため、ヒザが痛くても抑え込みを止めるわけにいかない。
そしてこれが試合だったらどうだろう。
ヒザを強打して痛いからちょっと待ってください、とはならない。
ここはポーカーフェイスでスパーリング続行・・・
「ごめん、ちょっと痛すぎるわ」
ダメだ、耐えられないーー
ヒザを抱えてのたうち回る私。
またもや消防士が駆け寄り、冷却材を用意しようとする。
私が大げさに痛がるため、ヒザを捻ったかなにかの大ケガだと思ったようだ。
申し訳ない、単なる打撲ですーー
打撲は時間が経たないと皮膚の変色が見られず、歩行などにも影響はない。
よって、ケガをしているかどうか見た目ではわからない。
しかし地味に鈍痛が続くのが打撲というやつであって。
ーー案ずるなかれ
こんなすり傷と打撲は、明日になればきれいに治っているのが私だ。
ケガによる超回復が自身の持ち味だと自負している以上、明日もまた小ケガを重ねながら強くなるしかない。
日ごろからゴリラと揶揄される私だが、意外なところでクマとの接点があったことを知る、今日この頃であった。
Illustrated by 希鳳
たぶん
ピッコロ大魔王、魔人ブウ、セルの類だと思う。
んー、その中ならセルがいいなぁ。
一番はフリーザ様だけどw