リアル・ギフテッド、それは私

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知人から「ギフテッド」について話を持ち掛けられた。

ふざけ半分で、私がギフテッドなんじゃないかと。

 

「抽象化思考ができる」

「強い情感と意見をもつ」

「推測力が効く」

「常識はずれのアイデア(とっぴな、ばかげたアイデア)が浮かぶ」

 

たしかにこの辺りならば思い当たる節がある。

しかしギフテッドとして最も重要な、ずば抜けた能力(知性、倫理観、正義感)や豊かな精神性を持っているわけではないので、残念ながらギフテッド候補からは外れる。

 

単純にギフテッドという言葉から思い浮かぶのは、何かを与えられた、または贈られたという状態。

 

そういう意味では、私は今日ギフテッドになったと言えるかもしれない。

 

ーー正午過ぎ、2つの段ボールが届いた

一つは大量のキウイ、もう一つは渾身の手料理。

 

いずれも人生の先輩からの贈り物だ。

 

 

32個のキウイの贈り主は射撃の先輩。

自家農園で生ったキウイを一つ一つ丁寧に新聞紙で包み、散弾銃の弾の箱へ詰めて送られてきた。

 

彼の先祖は農家だったが、戦後の農地改革で土地を失い、農家の流れを絶たれたのだそう。

そんな生粋の農家の血をひく先輩は、自宅の庭でキウイを育てている。

 

いっそのことキウイ農家になればいいのに、とつくづく思う。

なぜなら彼は、離職して22か月が過ぎようとしている立派な失業者だからだ。

 

「24時間自宅を武装警備してると言ってくれ」

 

再就職の応募をした企業は150社を数える。

だが、どこも見る目がないのと固定概念の殻を破れないことから、この変わり者を取り扱うことができない。

人は年齢じゃない、能力だ。

そんなことも分からない、もしくは分かっていても怖くて方向転換できない使用者の下で働く選択肢など、絶対に選ばないでもらいたい。

大好きなキウイを育てて、みんなに美味しいと喜ばれながら生きて行けばいいのに。

 

キウイで生計を立てるには、どうやら10万個のキウイが必要らしい。

彼の自家農園で採れた個数は220個。

例年より少なめらしいが、10万個にはとうていおよばない。

 

キウイ農家の夢が崩れ去ろうとしていたところへいきなり、

 

「年を重ねると趣味が変わるんだよ」

 

独自の価値観、世界観をもつ先輩が語り始めた。

 

「まずは女に始まり動物だろ、そして農作物からの盆栽でラストは石だ」

 

若かりし頃はデリヘル・ソープの常連、離婚歴もあるツワモノ。

その後は大型犬と暮らすようになり、今の相棒で4代目。

さらに現在キウイを育てているわけで、となると次は盆栽か。

 

着々と既定路線をこなしていく彼に、実はなによりも取り組んでもらいたい趣味がある。

それは、筋トレ。

 

かつてボディビルを目指していた大胸筋や広背筋、大腿四頭筋がいまでは影を潜めている。

人は見た目に寄らないのだ。

筋肉とはなんたるや、筋トレとはいかなるや、を毎度ことこまかに説明してくれる先輩。

足繁く通っていたゴールドジムからも離れ、筋肉に寂しい思いをさせていることを反省してほしい。

 

とにかく、その筋肉を放っておくことはできない。

すぐさまキウイ農家として自営業をスタートさせ、ゴールドジム通いを再開してもらいたい。

 

 

渾身の手料理を贈ってくれたのは、日本語の先生。

大学で講師も務める立派な女性だ。

 

じつは彼女と私は会ったことがない。

そんな得体のしれない相手に手料理をふるまうとは、なかなかの度胸をお持ちの先生だ。

 

段ボールを開けて驚いたのはそのボリューム。

まずは五目ごはん4合。

有斐閣の六法全書か?と間違うほどのずっしりとした重み。

食べるときはお箸でちまちま、ではなく、取り分け用のデカいスプーンでがっつりすくって口へと運ぶ。

具材と米がほどよく混ざり合う食感に加え、独特な風味と出汁が効いた絶妙な味は、これまでの記憶にない美味さだ。

 

お次は野菜の五目煮。

これまたカーリングのストーンか?というくらいどっしりとした厚みのあるタッパーが出てきた。

煮物は箸で取ると崩れたり滑ったりするのだが、具材の角を残す皮のむき方をしているため、箸でも十分つかみやすい。

お味は、といえば料亭の煮物級に上品でまろやかな一品。

間違って氷上を滑らせたとしても、かなりの突破力をもつだろう。

 

最後は豚バラのチャーシュー。

これはもう巻かれたネットを引きはがし、同梱された特性タレをぶっかけてかじりつく。

こんな食べ方を想定していないだろうが、これこそがチャーシューの望む食べ方であり、贈り主が期待する食べ方だろう。

 

すべての料理を半分ほど食べたところで、小休止。

そこでふと思った。

 

私は力士だと思われたのか?

この量は相撲部屋への差し入れレベルではないか?

 

まぁいいか。

美味しいものをたらふく食べる以外に、体が喜ぶことなどないわけで。

 

人間の体は食べ物でできている。

栄養やらバランスやらも大切だが、そんな理屈っぽいことは抜きにして、美味しいかどうか、嬉しいかどうかが一番の食欲を満たす要素となる。

 

料理には人柄が現れる。

ゆえに私の脳裏には、如実にそして鮮明に彼女の姿が描かれている。

 

 

ギフテッドーー

 

私は、選ばれし者でもなく、突出した能力も持ち合わせていない。

だがこうして心のこもった贈り物が届く事実こそ、ギフテッドである証だと自己完結させよう。

 

お二人のこれからが幸せであるように。

そして武力行使が必要なときは、私を召喚できる権利があることをお忘れなく。

 

食べ物の恨みは怖い。

食べ物の恩はそれ以上に深い。

 

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