ネバダ州といえば、米空軍基地である"エリア51"が有名。ここは単なる軍事施設というだけでなく、UFOの目撃情報が多発する地域でもあり、嘘か本当かこの目で確かめるべく、わたしは深夜2時に夜空を仰いだ。
ラッキーだったのは、ラスベガス在住の友人宅は市街地から少し離れたところにあるため、夜の空は漆黒に近い濃紺で星が綺麗に輝いていることだ。都心ではさすがにこうはいかない。煌びやかなネオンのど真ん中では、夜空も常に白んでしまうわけで。
友人邸の庭にはビーチチェアーが置かれあり、そこへどっかり腰を下ろしたわたしは早速UFOとやらを探した。とはいえ、わたしもそこまでバカではないので、開始早々にUFOを目撃できるとは思ってもいない。根気強く彼らが現れるのを待つ所存ではあるが、果たしてUFOとはどのくらいのサイズでどのような現れ方をするのだろうか——。
友人夫婦は「東の空にたくさんのUFOを見た」と言っていたので、とりあえずわたしも東の方角に目を光らせた。
(あのやけに眩しい星が、怪しいな・・)
さっきからピカピカと妖艶な輝きを放つ星が、個人的には「胡散臭い」と感じていた。星がまるで点滅するかのように光るなど、人工的であり異様である。おまけに、鋭く冷たい光を放っているような気がするので、アイツが星のフリをしたUFOなのかもしれない。
ジッと目を凝らして、その怪しい星をにらみつけること5分、10分・・。気付くとわたしは、30分ほど眠っていた。
(しまった・・これがかの有名なアブダクションか!?)
"アブダクション"とはUFOに連れ去られる現象のことで、その間の記憶は消されることもあるのだそう。だが今回は、アブダクションではなく単なる居眠りだと思われる。
気を取り直して例の怪しい星を見ると、相変わらずギラギラと不敵な輝きを放ってはいるが、さっきからずっと同じ場所に留まっていることから、アレはUFOではないと悟ったわたし。
(ならば、あの低い位置で強い光を放つ星が怪しい。よし、あいつを観察しよう——)
そして案の定、気付くとわたしはビーチチェアーにひっくり返って寝ていた。どうやら、星をじっと見つめる行為は"眠気を誘う儀式"となる模様。もう少し気楽に、適当に観察しなければならないのかもしれない。
・・と思った瞬間、なんと例の眩しい星が二つに分裂したではないか!!!
覚悟はしていたが、まさか本当にそんなことが起きるとは思っておらず、「マジか!?」と、メガネを押し上げて分裂した星を凝視したところ——なんだ、乱視のせいで二つに見えただけか。
そりゃそうだ、そう上手く事が進むとは思えない。UFO側だってそう簡単に姿を見せるとは思えないし、長期戦となるのは言うまでもない。
ややガッカリしながら再び背もたれに体を預けると、東の空を眺めながらわたしはいつしか眠りについていた。
*
(・・・あのクッキー、近くにある気配がする!?)
ビーチチェアーでふて寝していたわたしの脳裏に、突如、友人お手製のクッキーが飛び込んできた。
おととい、柔らかめとしっかり焼いたバージョンと、二種類のチョコチップクッキーを作ってくれたのだが、半生が好みのわたしは柔らかめのクッキーを一心不乱に完食した。そのため、しっかり焼いたほうの行方を追うことができず、目につくところは探したが、居場所を突き止めるには至らなかったのだ。
ところが今、わたしの脳内にビビッとチョコチップクッキーが浮かんだ。しかも、二つに折りたたまれたアルミホイルの姿とともに映ったわけで、これは間違いなくキッチンのどこかに置いてあるはず——。
いつ現れるか分からないUFOなんかよりも、確実に手が届く手作りクッキーのほうが、当然ながらわたしにとっては重要である。しかも、「クッキー食べたいなぁ」などと考えていたわけでもないのに、突然その姿が浮かんできたのだから、これはまさかの"UFO効果"なのかもしれない。
ビーチチェアーから飛び起きると、早速キッチンへと向かった。そしてアルミホイルの塊を探したところ——あったあった!想像通り、二つ折りのアルミホイルがテーブルの隅っこにそっと置かれているではないか!!
念ためアルミホイルを剥がしてみると、案の定、チョコチップクッキーが並んでいる。オーブンで焼いた状態のままなので、クッキーがアルミホイルに貼りついており、両面にたくさんのお宝がくっ付いている——やった、クッキーが食べられる!!!
深夜のクッキーは日中よりもなぜか美味い。背徳感がスパイスとなるのだろうか、食べても食べても手が止まらないのだ。そしてあっという間に"しっかり焼いたバージョン"を胃袋へ送り込んでしまったわたしは、あの不思議な現象について思い返してみた。
(UFOをこの目で確かめようと、強く願ったことで不思議なパワーが身に付いたのかもしれない。そしてこれは、わたしにとって必要不可欠なチカラである。なんせ「食べ物がどこにあるのか」を透視できるのだから、こんな都合のいい能力はない・・・)
——こうしてわたしは、UFOを直に見るよりもありがたい能力を手に入れたのであった。
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