ニンゲンはトウモロコシからできたわけだが、そんな"生命の起源"ともいえるリアル・トウモロコシが我が家に届いた。しかも、日本におけるトウモロコシの聖地・北海道からの極上品である。
北海道千歳市でトウモロコシ農家を営む『高嶋農園/Takashima Farm』は、地元道民からも称賛される完璧なトウモロコシを育てている。そして、わたしがトウモロコシ好きであることを知った友人が、「それなら、すごく美味しいトウモロコシがあるから送ってあげるよ」と、祝福の呪文を残して北海道へ戻って行ったのは春先のことだった。
その呪文の効力がまさに今、発揮されたのだ。
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わたしの地元である長野は、果実の栽培が盛んなため、都内の高級スーパーで売られているシャインマスカットや白桃を見るたびに、とても残念な気持ちになる。この程度の個体が、これほどまでに高額で販売されるなんて——とまでは言わないが、田舎出身あるあるだろう。地元ならば・・というか、懇意にしている農家から購入すれば、この半額で同等以上の果実が手に入るのだから。
そのため、高級フルーツと称される果実に関しては、お中元や夏ギフトとして贈られてくることに期待し、あえて身銭を切ることはせずに他力本願を貫くのであった。
そして今回、段ボール箱に詰められた採れたてのトウモロコシが届いたわけだが、フタを開けた瞬間に、北海道の大地を彷彿とさせる青々しい香りが飛び出してきた。箱の中には、立派な茎を従えたトウモロコシが10本、嬉々として詰め込まれている。
(・・おお、これはすごい!!)
思わずひとり言が口を突いて出た。なにがすごいって、トウモロコシを包む外皮の重厚感とヒゲのもさもさ感がすごいのだ。そんな、わたしの前腕と同じくらいの太さの、濃い緑をまとった爆弾を抱えてみる——うん、ずっしりとしていて威力絶大だ。
一般的に青果物というのは、自然との戦いに勝ち残った証である。とくにトウモロコシは、背丈も高くなるわ根は深々と伸びるわで、広大な土地が必要となる。そのため、日本における都道府県別の生産量は、ダントツで北海道(およそ40%)なのだ。
この数字は圧倒的なもので、二位の千葉県や三位の茨城県が7%台にとどまることからも明白。そのくらい、北海道はわが国におけるトウモロコシの聖地であり、トウモロコシ・・すなわちニンゲンを形作る生命誕生の地といえるのだ。
トウモロコシが優れているのは、鮮度と種類によっては"加熱することなく齧りつける"という点だろう。そうでなくとも、加熱の際にサランラップを必要としないあたりがエコであり、電子レンジという未知の調理器具に対応するべく、数千年前から体勢を整えていたのかと思うと脱帽である。
・・というわけで、皮とヒゲをつけたまま、北海道から直送されたトウモロコシを電子レンジへ放り込んだ。わたしは生でも食べられるので、4分・・いや、3分でいいだろう。
——チン!
熱々の濃緑爆弾のヒゲをつかんで、そのままテーブルへとスルーパスをする。この状態で数分間冷ます・・というか蒸らすことで、ほどよい歯ごたえのトウモロコシが完成するのだ。しかも、指先をやけどすることなく皮を剥くことができるので、この待ち時間は意味のある空白といえる。
そんな幸せの空白を経て、いよいよ金色(こんじき)の粒々と対面の瞬間を迎えた。
(・・・おぉ)
大粒でツヤツヤな実が、所せましとぎっしり詰まっている。ぷりっぷりに膨らんだ黄色い粒に歯を当ててみると・・パシュっと弾け、甘い汁が口の中へ飛び散った。すかさず何度か齧りついたところで、丁寧に咀嚼を繰り返した後に一言・・・これは美味い。
なんの味付けも調理もせずとも、ここまで完成度の高い美味さを与えてくれる穀物・・あるいは野菜というのは、トウモロコシを差し置いて他にはないだろう。さすがはニンゲンを作り上げただけのことはある——などとうんちくを垂れながらも、わたしは一心不乱に北海道産のトウモロコシに齧りついた。
穀物にカテゴライズされているが、この鮮度と歯ごたえ、そして蜜のようなたっぷりとした甘さは、まさに果実である。加えて、新鮮な青々しさと土の匂いが、ある種の調味料となっているのだろう。こんな贅沢な状態でトウモロコシを味わうことができるとは、北海道の友人に感謝である。
(・・あれ? わたしはたしか"サツマイモ推し"だったはずじゃ)
いずれにせよ、自然で作られた穀物や野菜・果実というのは、それだけで圧倒的な美味さと存在感を誇るのである。そして、それらの農作物の宝庫たる北海道は、わが国の聖地に認定してもいいだろう。
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