裸の付き合い in ニューヨーク

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ニューヨークへ来て、これはいい経験をした!と感じたことが一つだけある。

それは、正真正銘「裸の付き合い」が体験できたことだ。

 

 

ジムのシャワールームが、ちょっと変わっていることに気付いたのは、初日に着替えをしている時だった。

正方形のシャワールームの四隅に、シャワーヘッドが固定で設置されているのだが、その他に仕切りとなるものが存在しないのだ。

シャワーカーテンやパーテーションはなく、ただ単に部屋の壁にシャワーヘッドが4つ飛び出ている光景は、自ずとどこぞの収容所を想起させなくもない。とはいえ、リニューアル後なのか、清潔感あふれる綺麗なシャワールームなのでまったく問題はないのだが。

 

言うまでもなく、シャワールーム内にはタオルや着替えを置く場所はない。よって、着替えをするエリアからトイレを横切り、シャワールームまでの間は全裸で進むこととなる。

無論、その後のシャワーも全裸で行うため、かなりの広範囲で全裸エリアが展開されるのだ。

 

日本において、互いの裸をまじまじと見る機会はなく、むしろそういった習慣もない。さらには、他人の裸をまじまじと見る行為は失礼にあたる可能性もあるわけで、慎むべきことだろう。

そう考えると、すべてにおいて「見せない美学」というものが、日本には存在するように思う。体だけでなく、努力も稼ぎも隠しておくことこそが、美しく正しいやり方なのだ。

 

それに比べて米国は、かなりオープンに裸をさらけ出すのが特徴。

さっきからずっと、全裸にサンダルの状態で話に花が咲いている女子が二人、わたしの目の前にいる。片方はシャワー後、もう片方はこれからシャワーというシチュエーションのため、両方とも全裸でおしゃべりしているわけだ。

わたしもシャワーを浴びようと、全裸になったところで片方の女子と目が合った。

 

「日本のどこに住んでるの?」

 

そこまでの話に日本は出てこなかったが、わたしに気を使ってくれたのだろう。突如、日本の話に舵を切ったのだ。

「東京」と答えると、全裸の女子二人が食いついて来た。東京のどこどこを知っているとか、食べ物が美味しいとか、そこで柔術ができたらもっと楽しいだろうとか、各々が好き勝手な発言を飛ばしている。

当然、わたし一人がその場を通り抜けることもできず、結局、全裸の女子三人でどうでもいい話で盛り上がるしかなかった。

 

そのうち、更衣室に別の女子たちが入ってきたため、押し出されるかのように我々三人はシャワールームへと移動した。そして各々がシャワーヘッドの下に立つと、湯を浴びながらおしゃべりと続けるのであった。

 

国籍も年齢も体格も肌の色も異なる三人の女子が、全裸で立ったまま向かい合い、どうでもいい話をする機会などそうあることではない。

中でもシャワールームというのは、壁に向かって黙々と浴びるのが通常のあり方である。

ところが、ここには両側の仕切りがないため、隣りや背後の人間がすぐそこにいる。そのため、いつしか互いの顔や体を見ながら会話をしつつ、シャワーを浴びるというスタイルになるわけだ。

だからこそ生まれる、裸の付き合い――。

 

日本でも、温泉や銭湯で湯船に浸かりながら語り合うことはある。しかし、湯船から顔だけ出した状態は、裸でありながら裸ではない。

それに比べて、今の状況はどうだ。素っ裸の我々の間に立ちはだかるものは、空気以外に何もない。隠れる場所がないどころか、隠す気持ちすらないのだから清々しい。

 

コンタクトレンズを落としてもすぐに見つけられる明るさの下、惜しみなくさらけ出した裸体と裸体は、言葉を超えたコミュニケーションツールとなる。

なぜなら、そこから得られる情報というのは、衣服を身につけているよりも緻密で正確だから。ボディのフォルムや乳の膨らみ、VIOラインのムダ毛処理からタトゥーまで、余すところなく脳裏に刻まれることとなるのだ。

 

ちなみに、先ほどペアを組んで練習をした女性とわたしの体格は、ほぼ同じサイズだと思っていた。にもかかわらず、彼女はかなり重量感があったため、自らの筋力の衰えを嘆いていたところ、彼女の裸を見て驚いた。

明らかに、わたしよりもすべてがビッグだったのだ。

そんな、体重差15キロのわがままボディを眺めながら、「わたしの目は節穴なんだ」と呟くしかなかった。

 

 

ここまでリアルな「裸の付き合い」を体験したことのないわたしは、驚きと共に喜びを感じた。

そして、裸の付き合いをしたメンバーには、まるで昔からの友のような親近感を抱くから、不思議である。

 

かといって、このテンションを日本に持ち込んだら大変なことになるだろう。

むしろわたしが、セクハラか変態扱いされるのは目に見えているわけで、やはり「裸の付き合い」というのは場所と相手を選ぶべきなのだ。

 

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