(それは多分、生き霊だ)
友人が、あり得ない場所で「わたしを見た気がする」と言った。もちろん、どうやったら生き霊を飛ばせるのかなど知る由もないが、それでも多分、それはわたしの生き霊だと思った。
なぜなら、わたしはその友人のことを強く思っていたからだ。混雑する山手線の中で、天を仰いでも涙がこぼれてくるほど、友人の気持ちを慮(おもんぱか)っていた。しかし、相手を強く思うだけで生き霊が飛ばせるのならば、これまでだって何度もそういう機会はあったはず。それなのになぜ、今日に限ってわたしはとんでもない場所に現れたのか——きっと、ランチの影響に違いない。
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今日は久々に渋谷でランチをした。洒落たスペイン料理の店で、パエージャ(パエリア)と大量の葉っぱ(サラダ)、スープ、ケーキなどを満喫したが、重要なのはその際のメンバーである。わたしの姉貴分が本日アメリカへ帰国するとのことで、日本におけるラストのランチに誘ってもらったわけだが、彼女の友人や後輩で「非常に味わい深いメンバー」の中に、わたしも混ぜてもらったのだ。
じつはこの姉貴、ちょっと変わった能力というか感覚の持ち主で、三次元の世界では見ることのできない現象を見る・・あるいは感じることができるのである。無論、わたしには見ることも触れることもできない存在なので、異次元の話を聞いては「ほほー」と目を輝かせるだけなのだが。
とはいえ、わたしに”温かい光の感覚”を伝授してくれたのは、紛れもなく彼女だった。西海岸のどでかい太陽に手をかざし、そのエネルギーを体内へ落とし込む術を教えてもらったわたしは、なんとなく”熱く光るもの”を手の中に生み出すことができるようになった。さらに、目を瞑ったわたしに「デカくて白いだんご」のようなイメージを送り込んだのも事実である。まさかとは思うが、彼女がイメージした”白いだんご”がわたしの脳内でも写されたのだから、さすがに信じるしかないだろう。
ところが、ここで一つ重要な補足がある。彼女は「霊が見える」わけではないのだ。具体的には「レイキ・マスター」として、ヒーリングの施術やアチューンメントを行うことができる・・と言っても、わたしからすれば、自分には見えない/感じられないエネルギーを操作しているわけで、よく分からないが「霊もレイキもすごいな」の一言に尽きるのだが。
そんな彼女が連れてきた友人の一人に、ガチの霊能力者がいた。本人はその能力をあまりいいものだとは思っていなかったらしく、密かに隠して生きてきたのだそう。だが、それを知った姉貴が「そんな素晴らしい能力があるのに、もったいない!」と、持ち前のバイタリティーで彼を日の当たるところへグイグイと引っ張り出したのだ。
そんな二人の出会いも不思議なもので、どこぞの遺跡へ出向いた際にたまたま居合わせたのだそう。霊能力者のほうは「近々そういう人と会う・・という声(お告げ)を聞いていたので、もしかしてあのピンク色の髪の毛の人かな?と思って、僕にしては珍しく赤の他人に声をかけました」というから驚きだ。たしかに彼は、自ら他人に話しかけるようなタイプではない。それなのに、まるでアニメのキャラクターみたいな髪色と見た目の姉貴に声をかけるとは、相当な覚悟と勇気が必要だっただろう——。
「うーん。左の肩の上に、髪の毛かな?長いヒトか何かがいます」
”悪魔の化身”と言われる覚悟で、わたしの周りに何か見えるか尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。——先月、この世を去った愛犬の乙は短毛でブタのようなフォルムだし、髪の毛が長い人間でわたしに憑りつくようなヒトはいるか・・・?
その後、“目黒駅前の「はなまるうどん」へ入ろうとしたところ、超音波の攻撃を受けたことで入店拒否されたわたしは、自分とカラスだけが敷地内へ入れないことを発見した“というエピソードで一同をドン引きさせたが、それを聞いたカナダ人の友人が「もしかしたら左肩の上にいるの、そのときのカラスなんじゃない?」と、うまいことを言って笑いを誘ったのだ。
「いや・・どちらかというと龍のような長いものだと思います」
カラスを否定した霊能力者は、真面目な顔でそう説明した。・・なんと、わたしは肩に龍を乗せているのだ。いや、もしかするとマフラーのように巻きつけているのかもしれないが、いずれにせよめちゃくちゃカッコイイじゃないか。
——とまぁそんな感じで、霊能力者の隣りでランチを堪能したわたしは、ややもすれば彼の能力の欠片が浸透したのかもしれない。その結果、遠く離れた友人の元へわたしの生き霊が飛んで行ったのではないか・・と推測したのである。
他人のために涙をこぼすことなど滅多にしないわたしが、強く感情を揺さぶられて友人に共感したことに加えて、霊能力者の友人とランチをしたことでわたしの霊が本体から離れた・・と考えると、わたしの生き霊が友人の元へと飛んで行っても不思議ではないどころか得心が行く。
(いや、絶対にそうだ・・・そうに違いない!)
霊感もなにもないわたしだが、これに関しては「絶対にわたしの生き霊だ」という確信が持てるのであった。それにしても、友人の前に現れたわたしはどんな表情をしてたんだろう——。
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