今から三年前に、とある一冊の本が注目を浴びた。
その名も「ケーキの切れない非行少年たち」。著者であり、立命館大学大学院人間科学研究科教授の宮口幸治氏は、過去には児童精神科医として、医療少年院や精神科病院に勤務していた。
医療少年院とは、全国に2カ所しかない矯正施設である。在院者は14歳以上26歳未満の心身に顕著な故障が認められる者で、矯正教育と心身障害治療により、彼らの社会復帰への指導・支援を行っている。
著者が医療少年院(現在では、第3種少年院)に勤務していた頃、精神あるいは知的障害のある非行少年にこのような問題を出した。
「ここに、丸いケーキがあります。このケーキを3人で公平に分けて食べる場合、どうやって切ったらいいでしょう?」
そう言いながら大きな円が描かれた紙を見せて、鉛筆で円を三等分させるテストを行ったのだ。
結果は驚くべきことに、多くの非行少年がケーキを三等分することができなかったのだそう。つまり、認知機能に障害のある子どもが多かったのだ。ほかにも、
「りんごが5個あります。それを3人で平等に分けるには、どうしますか?」
という質問にも、うまく答えられずに黙り込んでしまったり。
これらの話を聞いて、私も自分なりにどう答えるのかを考えてみた。
まずはケーキを三等分してみよう。目の前には大きな丸いケーキ、そうだな、ガスタのチーズケーキだとしよう。これを3人で公平に食べるべく、包丁を入れるわけだ。
(・・・・)
三等分とは、これまた難しい問題を出しやがって。きれいに三等分するには、まずはどこから切ればいいのか。
そもそも、ケーキと包丁の大きさにもよるだろう。一回の動作でケーキを真っ二つにするほどの立派な包丁だとしたら、まずは強制的に二等分から始まるわけで。
そうなったら、いっそのこと四等分すればいいのでは?少なくとも三人は平等公平な大きさでチーズケーキが食べられる。そして残りの一かけらは、その辺にいる誰かにあげればいい。
(よし、これでいこう)
私の答えは、
「四等分して、そのうちの3つを三人で食べる」
ということでファイナルアンサー。
つぎに、5個のリンゴを3人で平等に分ける問題だ。
こんなものは難しく考えないほうがいい。目の前にリンゴが5個あると仮定して、それをどうやって3人で食べるかを考えればいいだけのこと。
そして私が導き出した答えは、これだ。
「5個のリンゴを半分に切って10欠片にし、3人で3欠片ずつ食べる。最後の1欠片は、誰かにあげるか野生動物のエサにする」
なるほど、合理的でトラブルにもならない方法である。
こうして自らの答えを引っ提げた私は、一般的な「正解」とやらを見に行った。するとそこには、仰天の事実が書かれてあった。
いわゆる一般的な回答は、「ケーキを三等分する場合は、ベンツマークのように中心から切れ目を入れる」というのが正解らしい。
屁理屈込みで回答した私の答えなど、間違っているのは承知の上。だが、私が導き出した真の正解というのは、
「縦に3カ所、真ん中だけ細めに切る」
というものだった。これはマジで、いや、真剣にこう思っていた。
つまり全然違ったのだ。見当違いも甚だしいほど、一般的な答えとはズレていたのだ。
焦る私は、リンゴの問題の答えを探した。とはいえ正解は載っていない。ただ、解釈の仕方として、
「5個のリンゴを思い浮かべる。そして3人に1個ずつ分けて、残りの2個をどうやって分けるかを考える問題だ」
と書かれてあった。
(そうか、はじめから切っちゃいけなかったのか・・・)
一気に雲行きが怪しくなる。もしかすると、私も一歩間違えば医療少年院行きだったのかもしれない。
これは個性だ!イマジネーションだ!と騒ぐのは簡単だが、私自身がもっとも衝撃を受けており、言い訳も屁理屈も影をひそめてしまった。
――まさかの三等分の方法について、私はまったく思いつかなかったのだから。
著者である宮口先生が考案した「コグトレ」なる認知機能トレーニングがある。子どもたちに紛れて、私も参加するべきか。
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