久しぶりに女性らしくワンピースを着てみた。
今日は仕事でキレイ目な格好をする日だったので、H&Mのオンラインショップで購入した黒いノースリーブのワンピースを初披露。
こんな薄着ができるとは、いよいよ夏が近づいてきた証拠だ。
地下鉄に乗ると、正面に座る女性の視線が気になる。どうやらわたしの足をみている。その隣りの男性も、チラチラとわたしの足を見る。
ーースネ毛の処理を怠ったか?!
恐る恐る足を見ると、毛はちゃんと処理してある。が、かなり大きなアザができている。
普段はズボンばかり履いており、柔術の時も長い丈のパンツのため、自分の足をまじまじと見ることなどなかった。
しかし、どうやらここ最近でできたと思われるアザが、生々しく存在感を示している。
ーーDV被害者だと思われたのか。
よく見ると二の腕や肩、首にまでアザや擦り傷(道着で絞められた痕)がある。
これでは完全に「DV被害に遭う女性」が出来上がっているではないか。
そりゃみんな見るわ。
*
かつてわたしはリアルDVに遭った。
19歳の頃、当時別れた男にボッコボコにされたのだ。
理由や原因は割愛するが、とにかくフルボッコというのはこういうことだろう、というくらい殴られボロ雑巾のようにクタクタにされた。
冬のある日。助手席に押し込められ、スーパーいなげやの駐車場に連行された。逃げる間もなくシートを倒され、マウントを取られると顔面を何度も殴られた。
両手を足で踏まれているため、防ぎたくても手が上がらない。
そのうち男のパンチが見えるようになり、それに合わせて顔を動かし衝撃を交わすことくらいしか、やれることはなかった。
しばらくすると、買い物客が近くを通りかかったのだろうか。馬乗りになっていた男が急に運転席に戻り、わたしのシートを元に戻した。
すぐさまわたしはポケットから携帯電話を取り出すと、110を押す。
とその瞬間、携帯を奪われへし折られた。
ーー終わった、殺される
どうせ殺されるなら狭い車内より外がいい。
それにここは駐車場の端っこだけど、もしかしたら誰かが助けてくれるかもしれない。
そう閃いたわたしは、再び殴られる寸前で助手席のドアを蹴り開ける。
その勢いで、地面に転がり落ちた。
ボタボタッーー
薄っすらと雪の積もった駐車場に、わたしの口から大量の血がこぼれた。真っ白いキャンバスにイチゴジャムをぶちまけたかのような血痕が、電灯でライトアップされて妙にキレイだ。
冷たい雪の上に四つん這いになりながら、わたしは思った。
ーーアタシ、なにやってんだろ。
その後、正気に戻った男は慌ててわたしを介抱する。そしてそのまま近くの病院まで運ばれ、治療を受けた。
「ごめん、本当にごめん」
男は嗚咽を漏らしながら泣いている。
わたしは一滴の涙も出ない。
「ほんとにごめん。だけど、だけど許せないんだよ」
そう言いながら、またわたしを殴った。
*
あの頃の「アザだらけでボロボロのわたし」を見るような目で、地下鉄の乗客らはわたしの腕や足を見る。
「かわいそうだ、ひどい暴行を受けたのだろう」
そう言わんばかりの表情で。
とそこへ、待ち合わせをしていたビジネスパートナーが現れた。
ワンピース姿のわたしを見るなり一言、
「お、ゲルググ」
ーーゲルググとは、TVアニメ「機動戦士ガンダム」に登場するジオン公国軍のモビルスーツ。一年戦争の末期で配備され、ビーム兵器を携行・使用する。
「肋軟骨治ったんだ?そのアザ、練習再開したんだね」
笑顔でそう言いながら近づいてくる友人。
そういえばわたしは、かつて「ドム」と呼ばれていたことを思い出す。
ーードム。ゲルググと同じく機動戦士ガンダムに登場する、ジオン公国軍のモビルスーツ。局地戦(主に地球上)用に開発されており、足裏に内蔵されたホバー推進装置により地表を高速滑走できる。
ゲルググとドム、いずれも見た目が「スカートを履いている」のだ。
まさかと思いながらも友人に、乗客らの冷視線のワケについて、わたしの見解を伝える。
「んなわけないじゃん、金髪でこんなゴツイのがDVされるとか。むしろDVするほうでしょ」
鼻で笑いながら着席すると、あっという間に眠りについてしまった。
ーー乗客全員、ぶっ殺す。
Illustrated by 希鳳
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