銃所持者は年に一度、銃検査というものを受けなければならない。銃刀法第13条による決まりだ。
それとは別に3年に一度、銃の更新をしなければならない。銃刀法第7条の2、3に定められている。
銃の更新は、誕生日の2か月前から1か月前までに行う必要がある。
分かりにくいので例を挙げると、6月6日生まれの人は4月6日から5月5日の間に更新を済ませなければならない。
ちなみに更新の申請を忘れたり、間に合わなかったりした場合、申請期限の翌日となる5月6日から誕生日の1か月後の7月5日までに、「銃を手放す申請」を行わなければならない。
その間に手続きをしないまま誕生日を1か月過ぎると、「不法所持」ということで警察によって強制的に銃を没収される。
更新に必要な書類は、そのほとんどがすぐに揃うものではないため、銃所持者は決して更新手続きの期間を忘れてはならないのだ。
一方、銃検査は毎年4月に行われるのが通例だが、今年はコロナの影響で検査日をバラすこととなった。よって、これまでは一日限定で銃検査をしていたが、今年は何日かに分けて数人ずつ行うことになる。
ーー問題はここからだ。
わたしは今年、銃の更新を迎える。そして4月6日から5月5日までに更新手続きを済まさなければならない。
そのための準備も怠らなかった。
大雨のなか経験者講習に行き、寒空のした技能講習を受け、破産していない証明書を本籍地で取得し、行きつけの精神科で診断書を書いてもらった。
あとは期日が到来するのを待つのみ。
だが、ちょうど時期を同じくして銃検査が行われるではないか。
銃検査も銃更新も、実際に銃を警察署へ持参して確認を行う。必要書類が多少違うが、重複するものもあるため使い回したりする。
かくいうわたしは銃の更新時は毎回、銃検査も同時に実施してもらうのが常だった。そこで今回もぜひそうしてもらいたいと、所轄警察署へ電話をかける。
かくかくしかじか理由をつけて、更新と検査を同日にお願いしますと伝える。
「指定日に検査を受けることが決まりなんですよ」
至極当然な回答だ。毎回そうしてもらってるんですけど、などという根拠の乏しい理屈はピンッと弾かれた。
「どのみち指定日は無理なんです。だから更新の時に一緒に・・」
わたしは喰らいつく。
「では予備日はどうですか?予備日で大丈夫ならその日にしてください」
なにがなんでも更新と検査を同時にはやってくれないということか。
ここはもはや奥の手を使うしかないーー。
「実はわたし、大ケガしてるんですよ。全治2か月の」
普通に説明しても受話器越しには伝わりにくいため、ちょっと大袈裟に盛って伝える。すると電話の向こうが一瞬シンとなった。
「肋軟骨が派手に折れていて銃も持てないんです。だから更新の日は銃砲店を連れていきます」
これは嘘ではない、事実だ。すると警察官の声色が変わった。
「そうだったんですか。いま担当が席を外しているので、戻り次第伝えますね」
ーー肋軟骨を骨折して、初めていいことがあった。
*
銃の更新のために鉄砲をかついで警察署へ行き、その数週間後に今度は銃検査のために再び鉄砲をかついで警察署へ行く。
ある意味、無駄に危険物を持ち出す行為ともいえるし、その数週間に何の意味があるのだろうか。
ましてや今はコロナ禍でフィジカル接触を避ける風潮にある。
「それが決まりだから」は、もうそろそろ放送禁止用語に連ねてもらいたい。
Illustrated by 希鳳
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