法律上は 『ダメ。ゼッタイ。』〜副業と社会保険の知られざる関係〜

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今週は仕事(社労士)をしている。

書類作成や電子申請などの事務作業ではなく、社労士としての相談業務にかなりの時間を割いている。

 

私の電話嫌いを熟知しているクライアントらは、まずはLINEやメールなどSNSでジャブを打ってくる。

スマホで撮影した画像や証拠書類のスクショもじゃんじゃん送ってくる。

「友達同士のやりとりじゃないんだから」

と苦言を呈する友人がいたが、バカなことを言わないでもらいたい。

私にとってはこの方法が最も受け入れやすいのだ。

 

お決まりの挨拶だの定型文だのに労力を注ぐくらいなら、さっさと要件を伝えてほしい。

ましてや言葉遣いなどどうでもいい。

過度な敬語や謙譲語よりも、単刀直入に要件をぶつけてほしい。

 

さすがに付き合いが長いと、どのクライアントも私が望む方法で相談や質問をしてくれるから助かる。

 

 

朝9時。

LINEに15件ほどの未読通知、送り主は顧問先の社長。

完全に嫌な予感しかしないが、事件ならば早急にどうにかしないと、その後のメシがまずくなる。

開いてみると、年金事務所から数十枚におよぶ通知やら納付書の束の画像。

 

(二以上事業所勤務届、出したからだな)

 

二以上事業所勤務届ーー

読んで字のごとく、社会保険の被保険者となりうる働き方をする人が、2社以上の会社で働くようになった時点で届け出る書類。

もちろん、いずれの会社でも社会保険加入となる場合のみ必要な手続きゆえ、副業のアルバイトで週10時間程度の労働であれば関係のない話。

 

だが、役員は注意が必要。

常勤役員が報酬を得る場合、金額の多少や勤務時間にかかわらず、社保加入が義務付けられている。

それゆえ、複数の会社で常勤役員となっている場合や代表取締役の場合、報酬発生時点で「二以上事業所勤務届」を提出しなければならない。

 

顧問先の社長もまさにこれに該当したため、昨年、二以上事業所勤務届の手続きを行ったのだ。

詳細は割愛するが、電子申請ができないことも含めて「手続きが煩雑すぎる」としか言いようがない。

 

2社から報酬を得る場合、「主たる選択事業所」と「非選択事業所」が存在し、どちらをメインにするかを決める必要がある。

そして本日、「主」と「非」と両方の年金事務所の徴収担当・適用担当と電話で交渉。

 

トータル2時間半を超える壮大なトーク。

が、最終的に私の訴えは通らず、社長のご機嫌をとりながら理解してもらうしかなくなった。

 

しかし、年金事務所の職員もかわいそうだ。

私が、

「でもさ、言ってることがおかしいって思うよね?」

と聞くと、

「はい、おかしいとは思います」

と答えるんだから、かわいそう。

 

おかしいと思いつつも、現行のルールがこれだからこう言うしかない。

もっと言うと「そう言わされている」職員の身にもなってほしい。

そりゃイライラもたまるわ。

 

そう、

2時間半の電話のうち半分以上は、職員のグチを聞いていたわけだ。

 

現場の疲弊感を政治家たちも味わうべきだろう。

 

 

二以上事業所勤務問題は今後、確実に増えると予想される。

なぜなら、昨年5月に成立した「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」で、社会保険の適用拡大が盛り込まれた。

 

そして、来年からは100人超の従業員がいる企業が、さらに2024年には50人超の企業が、週20時間以上のアルバイト(月収8.8万円以上、学生除く)を強制的に社会保険に加入させなければならない。

 

そうなれば、副業としてアルバイトをする正社員らが二以上事業所勤務者となる可能性も増す。

いずれにせよ、会社側がその人を「二以上事業所勤務者」であると知らずにいると、保険料の還付請求を含む煩雑な処理が、後から湧いて出るので注意が必要。

 

ちなみに、

複数の会社で社会保険に加入したとき、単純に「報酬月額の足し算」では済まされない。

 

たとえばA社30万円、B社15万円の場合、2社それぞれから該当する等級の保険料を控除すればいいわけではない。

合算した45万円の等級の保険料を按分し、それぞれの会社が新たに決定された保険料を納付する必要があるのだ。

 

そして、

この手続きは遡って更正されることが多いので、既に納付済みの保険料をいったん返金し、改めて納付し直す必要がある。

 

「そんなの、横流しで過不足だけ計算してくれたらいいんじゃないの?」

私は当然の質問をする。

「そう思うんですけど、ダメなんです、法律上」

そうか、法律ね。

 

なぜそうしなければならないのか、理論上は理解できる。

だが、実務上は理解し難い。

 

なぜ「ほぼ同じ金額」を、いったん戻してから再び納付しなければならないのか。

今回など100万円を超える金額だ。

こんな大きな金額をわざわざ「行って来い」する必要性が、本当にあるのだろうか。

 

広義的に見れば「同じ財布」に金を入れるのに、年金事務所の管轄が違うというような理由でやり直さなければならないのは、理解し難い。

しかしこれこそが法律であり、ルールというやつだ。

 

 

最後に注意点を。

二以上事業所勤務届を出すと、保険証は「主たる事業所」であっても新しくなるため、保険証の整理番号が1番の人は最後の番号になる

 

今回、顧問先の社長は「1番」だったのが「46番」まで下がった。

そして驚くことに、「非選択事業所」での社会保険を離脱したとき、いま使っている「主たる事業所」の保険証整理番号が、改めて新しくなる。

つまり1番→46番→99番のように、他社での社保加入・離脱があるたびに自社の保険証整理番号が変わってしまうことは、覚えておいた方がいい。

 

もっとも重要なことを教えよう。

二以上事業所勤務届の届出義務は、会社ではなく被保険者本人にある。

 

よって、副業等で社保加入となる場合、個人で責任をもってこの届出をする必要があるのでお忘れなく。

これを怠ると後々、年金事務所から両事業所に対して確認の通知が行くため、会社から「めんどくさいことさせやがって」と舌打ちされ兼ねない。

 

会社との良好な関係を築くためにも、労働者自身が知っておくべきルールや手続きについては最低限知っておこう。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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