趣味嗜好が変わると、それらに付随するアイテムも不用になりがちなのは、仕方がないとはいえ勿体ないことである。とくに服装について、トレンドではなく好みの傾向が変わったりすると、大枚をはたいて買い込んだ高級な衣服が大量のごみとなるわけで、なるべくならば好みは変わりたくないものである。
わたしは十年前・・いや、二十年前から服装の好みというかブランドが変わっていないので、今でも当時のデニムを履いている。それゆえに真の意味での"衣替え"には至らないが、同じブランドでも商品の展開に幅があるため、まるで使わなくなったアイテムというのも存在する。——それが、ベルトだ。
デニム好きなわたしは、桃太郎ジーンズやエビスジーンズ、ジースター、ディーゼルなどガチ目のデニムからファッションデニムまで、合計20本以上のジーパンを所有している。それは今も昔も変わらずなのだが、ここ最近は"自慢のおみ足のフォルム"がより一層ゴツくなったため、スキニータイプを履くことが多くなった。
「足が太くなったのに、なんでスキニーなんてタイトなデニムを履くの?」
・・と、不審に思う者もいるだろう。だが実際のところ、足が太くなればなるほどズボンの形状は細くなるのだ。よくよく思い出してほしいのだが、ダボッとした服装が似合うのはスリムな輩のみ。デブ・・いや、ふくよかな体型でダボっとした衣服を着用すれば、それはただ単に「体積の膨張」でしかない。そのため、筋肉質だろうが脂肪の塊だろうが、フォルムがデカくなったら下半身はタイトにしなければならないのである。
そしてなぜ、下半身のみをタイトにしなければならないのかというと、"一本足の傘おばけ"を想像してほしい。アイツのフォルムが魅力的とは言わないが、あれで下半身まで同じ太さだったら、それこそ「ふなっしー」である。
このようなキャラクター化を防ぐためにも、近年のわたしはピッタリ目のズボンを履くようになった結果、ベルトをまったく使わなくなった・・というわけだ。
ちなみに、わたしにはお気に入りのベルトがある。桃太郎ジーンズで購入したオリジナル・オーダーベルトだが、長年使いこなした牛革は味のあるキャラメル色に変化し、バックル部分の金属にも適度な傷が刻まれて、圧倒的な使用感が魅力をさらに増大させていた。
だが先述したとおり、スキニージーンズを履くようになってからはベルトを使わなくなった・・というより、ゴツいベルトが邪魔に感じるようになったため、隠すかのようにどこかへ片付けてしまったのだ。とはいえどのみち使わないのだから、しまった場所など大した問題ではない——と思いながら、数年の時が過ぎた。
(・・ヤバッ、ベルトがないとずり落ちるぞ)
数年ぶりにラルフ・ローレンのダメージデニムを発見したわたしは、懐かしさに心躍らせながらいそいそと足を通してみた。
さすがに尻と太ももの余裕はないが、それでもオーバーサイズかつメンズのジーパンゆえに、キツイということはない。しかし、ズボンが下がらないように腰で留めておく必要があるので、ベルトがないと歩くたびに落ちてしまうだろう。
いずれにせよ、せっかくの掘り出し物を見放すわけにはいかない。今日はなにがなんでもこのジーパンを履く・・ベルトを探し出して、意地でもこれを履くんだ!!
ところが、あらゆる衣装ケースを開け放ち、しまい込みそうな場所をしらみつぶしに探るも、あのベルトは見当たらなかった。立派なバックルに分厚いなめし革でできたベルト——あれほどの存在感ある物質を、見失うはずがない。
それから何度も家中をひっくり返したが、どういうことかベルトは見つからなかった。無論、あれほどの代物を捨てるはずもないので、どこかへ大切にしまい込んだのだ。ではいったいどこへ——?
そうこうするうちに、家を出る時間が迫ってきた。
(ダメだ・・もう見つからない)
といはいえ、今さらこのジーパンを捨てて別のズボンに履き替える勇気はない。どうにかして、コイツがずり落ちない方法を考えなければ——。
*
この際、多少の歩きにくさは我慢するしかない。そして、下半身が妙に太っていることも無視するしかない。なんせ、ジーパンの下にスキニーパンツを履いているのだから——。
だがこれならば、ジーパンがずり落ちることもないし、仮にずり落ちたとしても、その下には別のズボンを履いているのだから問題はない。
(それにしても、あのベルトはどこへ隠したんだろうか・・)
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