「因数分解」というものに触れなくなってから、もう何年・・いや、何十年経っただろうか。少なくとも、社会人になってから因数分解が必要となる場面は一度もなかった。
とはいえ、あんな簡単な数式が解けないはずもないので、「あぁ、因数分解ね」と鼻で笑ってしまう。そこでとりあえず、一問解いてみることにした。
2エックス二乗+3エックス-2
ものすごく簡単な数字が並んでおり、こんな数式が解けないなど中学生からやり直すべきだろう。5秒くらいで終わりそうだが、とりあえずボールペンはどこだ・・・と。
こうして、ポストに押し込まれていた港区長選挙のチラシの裏に、この数式を書き写すとさっそく因数分解を始めたわたし。
(・・えーっと、2エックス二乗にするためには片方が2エックスでもう片方がエックスでないとならないから・・そんでマイナス2ということは、マイナスが一つのはずで・・となると3にするためには1と2・・違うか、1と4か?)
・・・なんと、見事に解けないではないか。しかし、択一テストの素晴らしい点は、正解がそこに載っているということだ。よって、5つの正答例から一つを選び出すべく、答えを一問ずつ逆計算することにした。
(2エックスをカッコでくくって二乗にしたら、4エックス二乗になるから違うだろ。マイナス3とプラス1だと3エックスにならないから違う。ということは・・・これか!)
選択肢を一つずつ計算し、そこから正解を導き出す・・なんという無駄で誤った解き方だろうか。それでも、こうしない限りは一生マークシートを塗りつぶせないわけで、自力で人海戦術を繰り広げるしかないのである。
因数分解の次は三角関数だ。えー、なになに。目の高さが1.7メートルで、sin25°=0.4226、cos25°=0.9603、tan25°=0.4663の木の枝の高さってことは・・・いったい何をすれば答えが出るんだ。
サインコサインタンジェントという、呪文のような決めゼリフは記憶に残っているが、それが何だったのかを忘れているわたし。・・お、おかしい。これは得意だったはずなのに——。
よく分からない三角関数は飛ばして、次は√を使った平方根の問題だ。えーっと・・・二次方程式ってどうやって計算するんだっけ。
よし! 数学はあきらめて、社会の問題を解いてみよう。このくらいなら、どうにかなりそうだ。
「14世紀末に、農民反乱の中から頭角を現した洪武帝が、南京を都として開いた漢人王朝はどれか」
・・・? 14世紀が西暦何年かも分からないわたしは、洪武帝が誰かも、そして当時の王朝がなんという名前なのかも知らない。これはもはや、忘れたのではなく「知らない」のである。
「アメリカ大陸とヨーロッパの相互不干渉をとなえた、アメリカ大統領は誰か」
・・・?? むしろ、誰なのか教えてもらいたい。わたしが知っている大統領の中に、果たして、ヨーロッパ相互不干渉を唱えた人物がいるのだろうか。
少なくとも、トランプ氏やバイデン氏ではないことくらいは分かる。いや待てよ、トランプ氏は中国を排斥しようとしていたから、もしかするとヨーロッパも同様に捉えていたのか——。
・・・ダメだ。数学のほうがまだ答えられる気がする。とにかくわたしは、日本史や世界史、地理が本当に苦手なのだ。そのくらい非常識で記憶力も理解力も乏しい、学力底辺の人間なのだ!!!
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自暴自棄になったわたしは、過去問を閉じた。
(・・こんな役に立たないクイズを採用試験に用いるあたり、オワッテルとしか思えない。わたしの能力は、こんなものでは計り知れない深さとオリジナリティーなんだから!)
とはいえ、どんなに粋がって捨て台詞を吐こうが、どれほど負け犬の遠吠えをぶつけようが、試験に合格したければ正解しなければならないのである。
そして相手に認めてもらうには、相手の土俵で戦わなければならない・・という厳しさを、改めて思い知ったのである。
(中学生レベルの問題ではあるが・・・)
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