生豆と小型焙煎機が伝える、ホンモノのコーヒー/焙煎カフェやきやき

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わたしの血液はコーヒーでできている・・といっても過言ではないくらい、日々コーヒーを嗜むわたしにとって、10月1日という日は特別な一日となった。なぜなら——10月1日は「国際コーヒーの日」だからだ。

 

世界中で愛される我らがコーヒーには、じつは強力なバックボーンが存在する。その名も"国際コーヒー機構(ICO)”

ICOは、1963年に設立された唯一の国際的組織で、発足の目的としては"1962年に国際連合で定められた「国際コーヒー協定」をに基づき、コーヒーの生産や輸出について国際的な協定を取り決め、生産国と輸入国との経済力の格差による不公平を是正し、価格や供給の安定を図ること"を挙げている。

そして2014年3月に、ICOは10月1日を"国際コーヒーの日"として公に定めたのである。ちなみに日本では、もっと昔からコーヒーの日は存在していた。全日本コーヒー協会によると、

「秋冬期にコーヒーの需要が高くなることか ら、1983年に、全日本コーヒー協会によって、10月1日が「コーヒーの日」と定められた」

と述べられている。とどのつまりは、日本発祥のコーヒーの日が世界で認められる形となったわけだ。

 

“Coffee: your daily ritual, our shared journey”

話を戻すが、ICOは今年の国際コーヒーの日を記念するべく、このような素敵なスローガンを掲げた。であれば、自称・コーヒー大使のわたしも黙ってはいられない——というわけで、ピアノのレッスンで通うようになった北赤羽駅と隣接する商業施設の二階にある、焙煎カフェやきやきを訪れた。

 

そもそも北赤羽という土地を訪れるには、そこに住んでいるか用事があるかの二択しかない。渋谷をぶらっと歩く・・的な訪問の仕方はまずないわけで、だからこそ隠れた名店が潜んでいる可能性が高いのだ。

そしてこの「焙煎カフェやきやき」も、まさに"隠れた名店"なのである。

 

 

折り返しの電話を待っていたわたしは、電車に乗ることができずに駅周辺をウロウロしていた。すると目の前に「焙煎カフェ」の文字が飛び込んできたのだ。

(せっかくだから、覗いてみるか・・)

カフェの様子をうかがおうと店の前に置かれたメニューを見ていたところ、店主である上田恵さんが現れた。さすがに「声をかけられたならば、入らないわけにもいくまい」というわけで、コーヒーの日を記念するべく「焙煎カフェやきやき」へと足を踏み入れたのである。

 

店内を見渡すと、焙煎機や生豆が入った瓶、そしてこだわりの創作器(カップとソーサー)などが陳列されてあった。雰囲気はどちらかというと、"シャレたカフェ"というより"くつろげる自宅"に近い安堵感がある。もはやこれだけでも「ここはアタリだ!」となるわけだが、恵さんと会話をするうちに驚きの事実が発覚した。

「私じつはコーヒーが飲めなかったんですよ。何度も試したけど、まずくてまずくて・・笑」

そんな恵さんだが、今から30年以上前に新鮮な豆・・すなわち「生豆」と出会い、コーヒーが美味しいと感じるようになったのだそう。その後、ブラジルやコロンビア、グアテマラといったコーヒー産地の生産者から、直で新鮮な豆を輸送してもらうルートを確保すると、店内に設置された小型の焙煎機により自家焙煎し、新鮮かつ健康的で渋みの少ない"至高のコーヒー"を生み出したのである。

 

そういえば、大病を患ったことで市販の食べ物が喉を通らなくなった友人がいる。そこで彼女は、"自分の命をつなぐため"に食材から調味料からすべてを自身で選んで調理するようになった。だからこそ、彼女が作る食事は"命の灯の燃料"と呼べるわけで——。

・・そんなことを思い出しながら、挽きたてのドリップコーヒーに舌鼓を打つ——うん、香りは強いが渋みと酸味が抑えられていて飲みやすい。

 

さらに、やきやき自慢の一品である「大人のカフェオレ」も注文してみた。陶芸作家の手で作られた美しい器に、なみなみと注がれたホットカフェオレは、存在感のあるビターなコーヒーと牛乳のまろやかな飲み口で、まさに大人が喜ぶカフェオレである。

(これは美味い!カフェオレとしては、日本一じゃないか?)

普段はどちらかというとカフェラテを好むわたし。その理由は「美味いドリップコーヒーに出会わない」からだ。

ドリップコーヒーはある種の生き物ゆえに、とにかく新鮮さがものを言う。酸化したコーヒーなど、単なる黒くて苦い液体であり美味くもなんともない。そんなわけで、わたしが満足できるドリップコーヒーと出会う機会が少ないことからも、無難に「エスプレッソ×ミルク」の組み合わせから成るカフェラテを注文するのであった。

 

ところがこの店は、ドリップコーヒーがとにかく美味い。生豆の状態も素晴らしく、小型の焙煎機を使って焙煎することで、大手チェーン店が使用する大型焙煎機でつきものの"ムラ"がなくなる。その結果、渋さや苦味といった"雑味"の少ないコーヒーを作ることができるのだ。

そんなウンチクを脳内で回しながらも、温かい手触りと美しい色合いのカップを眺めながら、至高の一杯を嗜む——なんて贅沢な時を過ごしているのだろうか。これぞまさに、コーヒーの日を祝うに相応しいシチュエーション。

 

 

都心から少し離れた"北赤羽"という土地柄も影響するのかもしれないが、ゆっくりと流れる時間とどこか懐かしさを覚える店構え、そして、コーヒーひと筋・三十数年のベテランによる接客がマッチするカフェ——それが"焙煎カフェやきやき"なのである。

ここのコーヒーを飲むためだけに、北赤羽を訪れるのもアリだろう。コーヒー好きはぜひ一度、ご賞味あれ。

 

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