これは性格というのかなんというか、「まぁいっか!」となるレベルの違い・・というか、わたしにとってどうでもいいことと、他人にとってどうでもよくないことの乖離に驚かされた。
それはなにかというと"ソファーカバーの着せ方"だった。あれほど苦労してかぶせたにもかかわらず、サイズが間違っていたわけでもソファー(ベッド)のフォルムがおかしいわけでもなかった。まさかの、わたしのミスだったのである。
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チャタテムシの変により、室内で目につくすべての白い点に恐怖を感じるようになったわたしは、部屋中をとにかくきれいにした。あらゆるホコリを絡め取り、マイペットと濡れ雑巾で床や壁を磨き、布製品に関してはシーツやカバーを洗濯したりコロコロを転がしたりして、仕上げに殺虫剤を撃ちまくることで平穏を確保したのだ。
そんな大掃除の甲斐もあり、室内に清潔な空気が流れるようになったわけだが、一つだけ気になる存在があった。それがソファーである。
我が家のソファーは、正確にはソファーベッドを常時ソファーにしているため、座り心地もよくないしとにかく古い。だがさすがはニトリ。15年以上使っているのに、未だに不具合なく使用できるあたり"お値段以上"どころの話ではない。
そんな長年愛用しているソファーだが、ベッドとして使用しなくなってからはカバーを付けることなく、座面がむき出しの状態で置かれていた。現在のマンションへ引っ越す際、「捨ててもいいが、今はバタバタしているからもう少し置いておくか・・」ということで、捨てそびれた"お荷物"だったのだ。
しかし、なんだかんだで"ソファー"として活躍した年数が10年を超えたわけで、もうさすがに捨ててもよさそうだが、新たなソファー購入のための資金が乏しいことから、わたしはとある対処法を思いついたのだ。——そう、ソファーカバーをかぶせる・・という作戦だった。
ネット検索すると大量のソファーカバーが列挙された。しかも、"ソファーベッドをソファー使用した際の専用カバー"なるものも多数用意されており、イマドキの抜け目なさを感じるのであった。
(えーっと、縦が190センチで横が150センチ・・・)
ニトリのソファーベッドは、まさかの特殊サイズではないはず。いわゆる汎用品ゆえに、どのカバーであっても問題はないだろう。実際にメジャーで計測してみるも、多くのソファーカバーと一致する寸法であり、わたしは早速「肌触りのいいストレッチ素材で、洗濯機で丸洗いできる、女性一人でも楽に着脱可能なソファーベッドカバー」を購入した。
(カバーのつけ方は・・とくにないか)
口にゴムが入っているため、いわゆる"マットレスカバーと同じような形状"だ。ということは、カポッとかぶせて全体のバランスを整えれば完成か——。
女性一人でも簡単に着脱できる・・と名言しているのだから、このくらい簡単であることは当然である。とりあえず、四隅の角っぽい尖がった部分をソファーの角に合わせて、犬に洋服を着せるかのように強引にかぶせてみた。
ビリッ!
途中で何度か糸か布が切れる音がしたが、中国製ならではのざっくりとしたサイズ感ゆえに少し小さかったのだろう。さほど気にすることなく、強引にかぶせきったのである。
(まぁ、しかたないか・・)
キャメル色のソファーカバーをかぶせたソファーベッドは、なぜかパツパツに突っ張っていた。そのくせ座面には奇妙なゆとりが生じており、先ほど"四隅の角であろう尖った部分"と思っていた箇所が、なぜか角にハマることなくビローンと飛び出ているのだ。
(これだから中国製はあてにならない。サイズを表記したならば、ちゃんとそのサイズで縫製してもらいたいものだ)
とはいえ、開封してしまった・・というか、無理やりかぶせたことで糸が切れてしまったものは仕方がない。パツパツの状態だが、しばらく使ってから捨てるとしよう——。
こうして、サイズの違うソファーカバーと二週間ほどの共同生活を送ったのであった。
*
「・・この余ってる部分、なんで押し込んであるの?」
ソファーカバーを見下ろしながら相方が問いかけてきた。そりゃ、余ってて邪魔だからに決まっているだろう——。
すると彼は、無言でソファーカバーを剥がし始めたのだ。そして黙々と作業を続けた結果、なんと・・ソファーカバーがたるみなく見事に装着されたのである!!
「えーっ!すごい!!業者の方ですか?!」
個人的には、あのたるみは背もたれと座面の間に押し込んでおいたので、邪魔に感じることはなかった。だが、相方にとっては非常に気になるたるみだった模様。——いつでも出しっぱなし、なんでもやりっぱなしで放置するくせに、こういう細かい部分は気になるんだな。
すると、断じて賢くないはずの相方が、ため息まじりでこう説明してくれたのだ。
「普通に考えて、正面にタグがくるのはおかしいでしょ。しかも角にはめるべき部分が座面にきてるのも、明らかに違うってわかるでしょ・・」
——わたしは言葉を失った。言われてみればその通りである。Tシャツでもなんでも、タグは背中側に付いているではないか。ていうか、タグなんてものがソファーカバーに付いていたことすら、わたしは気がつかなかったが。
そして、尖った部分が角にくることくらい、当然ながらわたしだって承知していたし、だからこそ座面の角にそこを合わせて着せたわけだが、なぜか分からないがかぶせてみるとそこが余ってしまったのだ。
・・というわけで、正解は「前後を逆にかぶせていた」だった。たしかに、どういうわけかツンツルテンでサイズ感がおかしかったが、それを己の装着ミスではなく"中国製だから"などという、国際紛争に発展しそうな言い訳でスルーしていたのだ。
わたしはなぜ、前後逆の可能性を疑わなかったのだろうか。いや・・それよりも、明らかに間違った装着だと認識していたにもかかわらず、なぜやり直さなかったのだろうか。
——その答えは「別にどうでもよかったから」である。
なんせ、余った布は隙間へ押し込めば解決できるし、相方いわく「最初は、奇抜でオシャレなソファーカバーなのかと思った」というくらい、フィットはしていないが"ありえる感じ"でかぶせていたのだから。
要するに「許容範囲は人それぞれなんだ」ということを、苦々しくも明確に実感した瞬間であった。
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