天井が高いわが家には、シーリングファンなるプロペラが設置されている。購入当時は「こんな、オシャレカフェでグルグル回っているようなアイテム、所詮は見た目だけのお飾りに決まっている」と高を括っていた。だが、スイッチをオンにした瞬間、たしかにわたしは風を感じたのだ。
(・・おぉ、これは飾りなんかじゃない!)
シーリングファンの羽根は、やや角度がついた状態で中心のモーター部分に刺さっている。そのため、回転する方向によっては上昇気流と下降気流、二種類の気流を生み出すことができるのだ。
たとえば冬場は冷たい空気が沈むため、シーリングファンを上向きに回すことで、下に溜まった冷たい空気を引き上げることができる。それによって、押し出されるように天井付近の暖かい空気が下へと移動するため、結果として部屋全体・・というかフロア付近の温度も上がるわけだ。
そして、わたしがシーリングファンの威力に屈服したのは、やはり冬場の温度調整を体感したときだった。
極寒のシベリアに建てられたコンクリートの洞穴のようなわが家は、冬の寒さが尋常じゃない。室内にもかかわらず、コートやダウンジャケットが手放せないという、信じられないほど過酷な環境になるからだ。
そんなわたしの日常に、ひと筋の光が差し込んだ——そう、シーリングファンとの出会いである。なんせ、天井付近に埋め込まれた「壁掛けエアコン」という、ミスマッチという言葉では済まされないほどの設計ミスにより、エアコンがまったく機能しないわが家だが、シーリングファンを回すことで室内の空気の向きを調整できるようになったのだ。
真冬の夜中、ソファに座っていても微かに感じる暖かい風——これこそが、暖房ってやつだろう。とはいえ床までは暖まらないため、足元はいつもキンキンに冷えていた。そんなピンチを救ってくれたのが、ヤクの靴下だった。
これまでの冷えが嘘のように、ヤクが持つ保温ポテンシャルで足元はポカポカ。おまけにまったく蒸れない快適さは、冷房をガンガンにきかせた夏場でも活躍するほどの優れもの。
・・そんなこんなで、シーリングファンとヤクの靴下により、シベリア級の寒さから身を守れるようになったのである。
ところが今日、わたしはとある事実に気がついた。
(・・あれ?冷房時の回転のはずだけど、羽根が上向きじゃないか)
スイッチをオフにすると、徐々にスピードを落としていくシーリングファン。うん、間違いなく上昇気流になっている——。
たしか、冬場が上昇気流だから夏場は下降気流にするべき。ところが、冷房時に上昇気流になっているということは・・そう、設置時に羽根の向きを逆に取り付けてしまったのだ。
しかもこの状況から察するに、冬場は暖房の回転すなわち下降気流になっていたはず。それでも暖かい空気を感じていたということは——ハッ!!
その時わたしは気がついた。壁に埋め込まれた壁掛けエアコンの風は、天井から30センチの空間に向かって吹き出している。そしてシーリングファンはちょうどその延長線上でクルクル回っている。ということは、エアコン使用時は常に下降気流にしておけば、暖房でも冷房でも見事にキャッチして下界のわたしへと届けてくれるのでは——。
ここまでの話をまとめるど、シーリングファンの羽根の向きを誤って設置したことで、冬場に「冷房」すなわち下降気流となる回転が繰り広げられていた。ところがそのおかげで、エアコン送風口から発射された暖かい風をダイレクトに叩き落とすこととなり、結果的に暖かい風がフロア付近に届いたわけだ。
そして今、シーリングファンは「暖房」の回転となっており、上昇気流が発生している。そのため、冷房を選択しているにもかかわらず、冷たい風が地上に届かない。
要するに、年がら年中「暖房(羽根の向き的には冷房=下降気流)」の回転にしておけば、これまで役に立たなかったエアコンが機能する・・ということではないか——。
わたしはそっと、シーリングファンの回転を切り替えてみた。その数秒後、初夏の森林を吹き抜けるような爽やかな風が、わたしの頬を撫でたのだ。
(あぁ、ここ数年の夏をやり直したい・・・)
これで今年の夏は、間違いなく快適に過ごせるだろう。
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