緊急事態発生!人さし指のツメに異変が・・・

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ピアノの発表会を間近に控えたわたしは、多くの友人・知人らにその事実を伝えており、もはや引くに引けない状態となっていた。

実際のところ、子どもの学芸会のオトナ版なわけで、正直、ピアノがうまい人など一人もいない。ほとんどがオトナになってから始めた趣味であり、毎週少しずつ曲が弾けるようになる喜びこそが、我々にとっての小さな満足となっているわけで。

 

それでも、日頃のわたしを知っている者からすれば、

「あのゴリマッチョが、ドレスにヒールでピアノを弾く?!」

と、ビジュアル的な面白さへの期待に興味津々なのである。もはや演奏は二の次で、入場シーンこそが肝心となっているわけだ。

 

かくいうわたしも、「こうなったからには、エンターテイナーとしての役割をまっとうしなければならない」という責任感に駆られていた。

とはいえ、演奏レベルを向上させることは今さら無理である。持って生まれた才能というものがあり、それを持っていない者がどれほど努力しようが、大した結果には結びつかないからだ。

 

であれば、ビジュアルに特化したエンターテイナーを目指すしかない。

どうせなら、来てくれた友人・知人らに何らかの感動あるいは衝撃を与えたい——そう考えたわたしは、レンタルドレスのサイトで試着の予約をした。

「似合わなくていいので、ド派手でインパクトのあるドレスが希望です」

こんな要望を伝えるほど、わたしは己を捨ててエンタメに振り切る覚悟を決めたのだ。

 

しかしながら、肝心のピアノがあまりに疎かでは、せっかく足を運んでくれた彼ら彼女らをガッカリさせてしまうだろう。よって、できる限りの努力はしておこう・・と小さく決心した。

それからというもの、移動中はYouTubeで曲をエンドレスリピートし、自宅にいるときは寝る時間よりもピアノに向かう・・というスパルタな日々が続いたのだ。

 

そんなある日、わたしはとある異変に気がついた。

(指が・・指先が痛いぞ)

なんと、人差し指の先っぽに疼痛を感じるようになったのだ。原因は「ツメが横に割れたため」である。

 

目で見て分かるほどパッキリと入ったヒビを押すと、指の肉に痛みが走る。つまり、鍵盤を押すことでツメと肉が剥がされるような圧力が加わり、それでも練習を続けたことでどんどんヒビが広がっていったのだ。

しかも両方の人さし指のツメに亀裂が入っており、鍵盤を押せば押すほど溝が深くなるという、拷問に似た負のループが成立するのであった。

 

(やばいな・・アロンアルファで固めてみるか)

困ったときは瞬間接着剤・・と思ったが、残念ながらわが家にアロンアルファの在庫は見当たらない。

そこで仕方なく、ツメの先端を中心に指の表裏を覆うように絆創膏を貼り、さらにテーピングでグルグル巻きにしてみた。

——果たしてこれで、痛みを防げるのだろうか。

 

ピアノの練習をし過ぎたがために、人さし指のツメに亀裂が入る・・という不運に見舞われたわたし。

これは、人さし指の形に問題があるせいかもしれないし、はたまたわたしの弾き方に問題があるのかもしれない。だが、いかなる理由であれ今さらなにも変えられないのだから、とりあえずはツメが伸びて亀裂とサヨナラすることを祈るしかない。

それまでの間は、なんとかして「痛みを抑える弾き方」を開発しなければ——。

 

こうしてわたしは、テーピングでグルグル巻きにした人さし指でピアノの練習に取り組んだ。

その結果、朗報としては「テーピングのおかげで痛みは感じない」ということで、悲報としては「グルグルに巻いたテーピングのせいで、余計な鍵盤を押してしまう」ということだった。

(まぁ、仕方ないよな・・)

そこでわたしは、テーピングの量を減らしてみたり、黒鍵と黒鍵の間を弾くときは滑り込ませるようにしてみたり、不自由な状態でのベストを編み出すべく努力を重ねた。

 

それにしても、こういう「普通じゃない状態」に対する努力・・というか意気込みが尋常ではないわたしは、"いかに上手く演奏するか"ではなく、"テーピングを巻いた指でいかに普通に弾くか"に全神経を集中させた。

これこそが興味の真髄であり、いかにマイナスをプラス・・いや、ゼロに持っていけるかが、わたしにとってのやりがいの本質なのだ。

 

(もう少し練習すれば、この状態でもそこそこ普通に聞こえる打鍵ができる!!)

 

・・・こうして、いつのまにか夜が更けていくのであった。

 

Illustrated by 希鳳

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