何年ぶりか、実家にピアノが届く日

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わたしは今日、実家に置いておくための電子ピアノを購入した。

実のところ、電子ピアノというものがあまり好きではなかったのだが、冷静に考えてみると、わたしごときの自宅練習ならば電子ピアノで十分ではないか・・と気づいたのだ。

 

 

ピアノを再開して3年が経過するが、レッスンの度に思うことがある。それは「自宅のピアノと先生宅のピアノが全然違う」ということだ。

そりゃ、わが家にあるのは箱型のアップライトピアノで、先生のお宅にあるのは大きなグランドピアノだから、別の楽器といっても過言ではない。そもそも、音を出す仕組みが違うのだから、ひとくくりに「ピアノ」としてしまうところに間違いがある。

・・などと屁理屈を並べたところで、白黒の鍵盤が八十八個あるのだからピアノに違いないわけで、先生のピアノで上手く弾けないのは単に実力不足というだけのこと。その溝を埋めるべく、わたしはレンタルスタジオでグランドピアノを借りて練習することにしたのだ。

 

厳密には、レンタルスタジオのピアノと先生宅のピアノとでも違いはあるが、それでもわが家の箱型ピアノよりはずっと近い感覚のため、自宅での練習とレッスンとの間に、レンタルスタジオを挟むことで「すり合わせ」をしているのだ。

さらに、これをすることでレッスン当日の出来栄えはかなり向上した。一番の理由として、鍵盤の重さというか「深さの違和感」が解消されたことだろう。

わが家のピアノは消音機を埋め込んであるため、見た目は立派なアコースティックピアノだが、音は完全なる電子ピアノ。そのため、鍵盤はスイッチでしかないのだ。

 

そんな、音の強弱もほとんど弾き分けられず、電源である鍵盤のオン・オフを繰り返すことで「ピアノの練習」をしているわたしは、ふと気が付いた。

(・・これは、電子ピアノでよかったんじゃないか?)

ようやくピアノのローンを払い終わったところだが、だからといってそれを売るような真似はしたくない。しかし、このピアノを購入してからの3年間、ピアノ本来の音の出し方はしていない。なんせ我がマンションは楽器禁止のため、アコースティックピアノを置く意味などないのだから。

 

ピアノを再開した当初は、

「ピアノたるもの、アコースティックでなければ意味がない!」

などと知ったかぶって息巻いていたが、3年経ってようやく気が付いたことがある。それは、「そもそもアコースティックピアノをアコースティックピアノとして使用することができないならば、わざわざアコースティックピアノを所持する必要はない」ということだ。

その代わりに、週に何度かレンタルスタジオでグランドピアノを借りて練習できれば、打鍵の違和感はほぼ解消できるはずだからだ。

 

 

きたる5月3日、一世一代の大舞台が控えているわたし。例えるならば、ブラジリアン柔術で青帯の新米が、黒帯のベテラン選手に勝負を挑むかのような、明らかに実力が伴っていない高難度の曲を、その日に弾くのである。

そのため、今年に入ってからは毎日練習することを心に誓ったわたしは、実家に帰省すると、この決め事が守れなくなる現実に気が付いた。新年早々、誓いを破るのもアレだしなぁ——。

 

とりあえず、すぐに実家に届く電子ピアノをAmazonで検索してみた。今回は、とにかく"安価"をモットーに決めようと思う。どれほどこだわったところで、所詮は電子ピアノ。こだわればこだわるほど、ドツボにはまるだけだからだ。

(・・ん? 641件で星が4.5とは、えらい高評価じゃないか!)

どこのメーカーかも分からない電子ピアノだが、鍵盤は88鍵だしペダルも付いているし、キーボードを載せるスタンドまでついている。幸いにも実家には、わたしが使っていたピアノの椅子だけがポツンと残されているため、この電子ピアノのセットを購入すれば、一気に問題解決というわけだ。

 

(値段は22,800円、今ならば初売りクーポンで2,000円引き——悪くない)

だがその時、Amazonが類似品を勧めてきた。これまたどこのメーカーか分からないが、先ほど見ていた電子ピアノをほぼ同じスペックに見える。ただ、値段が違うだけだった。

(こちらは23,500円で初売りクーポンが3,000円分付いている。ということは正味20,500円。対するあちらは正味20,800円。わずか300円の差ではあるが、安いほうにしようか・・・)

ところがわたしは、安いほうの評価が202件中4.4であることに気が付いた。あっちは641件で4.5ということは、相対的にみてもあっちのほうが高評価であるのは明白。ならば300円ごときにこだわるべきではない。

 

とはいえ、ECサイトの評価などあてにならない。中にはサクラやバイトもいるわけで、本当にいい商品かどうかはむしろ低評価の内容を見るべきなのだ。どれどれ——。

 

 

・・・こうして4時間が経過した。結局、触ることのできない楽器を選ぶことほど、難しい選択はないのだ。

今回、音質は度外視だが、できるだけ鍵盤のストロークがアコースティックピアノと同じ(10ミリ)であること、さらに、鍵盤の重さがしっかりしているものを選びたかった。

ところが、お目当ての2商品はいずれもほぼ同等の内容であり、いや、実際はメーカー名が違うだけでまったく同じ商品だと思うが、300円の価格差と0.1の評価差で4時間を費やしたのである。

 

あぁ・・楽器選びというものは、やはり店頭でするべきだな——。

 

サムネイル/NikomKu電子ピアノ

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