高輪警察署、「警察官嫌われがち説」を見事に覆す

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当たり前すぎる話だが、どんな職業に就いていようが、印象というのは個々の人間性によって良くも悪くも変わるもの。そしてコミュニティーというのは、似た者同士が集まる傾向にあるので、政治家に社会不適合者や性格に問題のある人間が多いことにも頷ける。

さらに、なぜか公務員というのも嫌われがちな職業の一つである。とくに役所の人間と警察官が、叩かれがちな公務員の代表といえるだろう。

 

役所の人間が叩かれる理由は、対応の慇懃無礼さにある。来庁者の目線に合わせて懇切丁寧に対応などしていたら、あっというまに閉館時間を迎えてしまう。あまねく平等なサービスを提供するには、「おもてなし」のような親切心は不要。必要最小限のやり取りだけを粛々と行うことこそが、公務員に課せられた任務なのである。

・・・と考えているからだろう。要するに、コミュ障でめんどくさがりな人間が、役所への就職を選びがちなのだ。

無論、そうでない人間も大勢いる。少なくとも、わたしが8年間一緒に仕事をした区役所の職員たちは、そのほとんどがデキる人間で未だに交流を続けているわけで。

 

一方、警察官が叩かれる理由はいくつかあるが、中でも道路交通法の取締りに対する「腹いせ」が大きなシェアを占めている。

「なにもあんなところに隠れて、わざわざ一時停止を確認する必要なんてある?」

たしかに、人も車もほとんど通らないような道路の陰に、ひっそりとパトカーが待機していた。そして一瞬止まったか止まらないかのタイミングで前進したところ、待ってましたとばかりにパトカーが動き出したのだ。

そもそも安全確認のための一時停止であり、見通しのいい交差点で対向車が来ないことが明らかな状況で、わざわざ完全に停止する意味があるのだろうか。ルールとしてはそうなのだが、その目的は「安全確認」ではないのだろうか。

とはいえ決まりは決まりなので、友人は違反切符を切られて悔しがっていたのである。

 

道路のスピード違反も同じだ。100キロ制限の高速道路を114キロで走行中に、覆面パトカーから停止命令を受けたことがある。たしかに制限速度を超えているので、言い訳の余地はない。

しかし、そんなわたしを追い越していった無数の車は捕まらずに、どんくさいわたしがおとりになったようなもの。なんとも不公平である。

個人的には、スピードよりもあおり運転の取締りを強化してもらいたいものだ。・・・などと負け惜しみを言ってみたりする。

 

そんなこんなで、役所の人間と警察官の嫌われ方の種類は違うかもしれないが、いずれにせよ人間相手である限りは、相手の対応や人間性によってその印象は大きく変わる。

そして我が管轄である高輪警察署の最近は、たまたまかもしれないが、気持ちのいい対応をしてくれる職員が増えたように感じるのだ。

 

 

「銃検に来ましたぁ」

そう告げると、さっさとエレベーターに乗り込もうとしたわたしを、受付の職員が呼び止めた。彼も電話中のため、なぜ止められたのか理由は分からない。

仕方がないのでしばらく立っていると、別件の対応を終えた他の職員がわたしに声をかけてきた。

「来場者の方々に名前や連絡先を記入いただき、カードホルダーを渡すようになったんです」

両手に散弾銃のケースを抱えるわたしを見て、記入の手間をとらせることを詫びる職員。とはいえ決まりなので従うしかない。

 

「ではこちらをお持ちください。いってらっしゃい!」

そう言いながら、カードホルダーを手渡された。初対面で名前も所属部署も知らない男性だが、それでも笑顔で「いってらっしゃい」と言われて嫌な気持ちにはならない。これから取り調べを受ける身でもないので・・。

 

狭いエレベータに乗り込むと、後から入って来た警察官が「5階でいいですか?」と尋ねてきた。「はい」と答えると、彼はエレベータガール、いや、エレベータボーイの如く手際よく、「5階」と「閉じる」ボタンを押した。

足を引きずるわたしを見て、危うく「荷物を持ちましょうか?」と言いそうなそぶりを見せたが、さすがにそれが散弾銃であることは明白なため、心配そうな眼差しで見守るにとどめた様子。

もちろん、降りる際もレディーファーストでわたしを降ろした後に、背後をしっかりと護衛しながら送り出してくれた若手警察官。

(・・お姫様っぽくて、わるくないぞ)

 

銃検会場に入ると、そこはまさに同窓会のような雰囲気だった。

「よくぞいらっしゃいました!」

とまでは言わないが、顔見知りの職員や検査の手伝いで待機している知人らが、わらわらとこちらへ寄って来た。膝を怪我していたのがよかったのかもしれない。あれこれ手伝ってもらったあげくに怪我の話で盛り上がり、あっという間に検査が終わったからだ。

「来年が銃の更新なので、ぜひ忘れないようにしてくださいね」

銃砲担当の職員から優しく助言をもらい、わたしは検査会場を後にした。

 

帰りのエレベータで一緒になったガタイの良い警察官に、エレベータ内に貼られた「振り込め詐欺に注意」というチラシを見ながら、

「これって、まだあるんですか?」

と、不意に尋ねてみた。いっとき流行っていたが、ここ最近はあまり聞かない気がしたからだ。

「それがまだ全然あるんですよ!」

一見、無口でおしゃべり嫌いに見える男性だったが、意外にも目を輝かせながらこちらを向いて答えてくれた。

「次々に手口を変えるんですよ。どうやら、空き巣よりも実入りがいいらしくて」

なるほど。空き巣よりもローリスク(?)で確実にカネが手に入るのが、振り込め詐欺らしい。

頭脳系犯罪に疎いわたしはその話に興味があったが、残念ながらあっという間にエレベータは1階に到着してしまった。

 

「ありがとうございましたぁ」

先ほどの受付職員にカードホルダーを返すと、高輪警察署を後にしたわたし。

個人的意見というか感想だが、ああいう人たちのためならば、銃所持関連だけでなく何かあれば協力してあげたい、という気持ちになる。そう思えるのも、わたしが人間で相手も人間だからだろう。

 

どうせ同じ対応をするならば、気持ちのいい対応をするほうが得である。賄賂をもらったり、何か特別な対応をされたりしたわけでもないのに、わたしはこんなにも気分がいいのだから。

 

Illustrated by 希鳳

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