日本と米国でスイッチすべき二つの案件

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都内で地下鉄を利用するときと、大規模な商業施設を訪れたときに、ふと「思うこと」がある。

正確には、日本とアメリカとで「ここを入れ替えたら、かなりストレスが減るのに!」という、ちょっとした技術導入についてだ。

 

 

まずは、都内の地下鉄ホームに設置された、侵入防止のためのホームドアについて。

これこそが、日本が誇る最高水準の安全技術である。最近ではJRや私鉄でも導入されているが、このフェンスがあるおかげで、不慮の転落事故や電車との接触事故が格段に減っている。

 

かつて都内の風物詩でもあった、「朝の通勤ラッシュ」のような大混雑は消えた。そしてコロナ禍によるテレワークの浸透から、相対的に電車を利用する人数が減ったため、ホームから溢れるほどの人間を目にする機会はほぼなくなった。

 

だがそれとは別に、視覚障害者にとってホームドアはかなり強い味方といえる。

父親が全盲であることからも、偶発的であれ何であれ、視力の弱い人が線路へ転落する事件・事故を知る度に、

「速度を落として入線するとはいえ、電車に触れたら大怪我するのに、なぜ安全柵を設置しないのだろう?」

と、昔から疑問に思っていた。

 

しかしこの疑問を解消するべく、いつしかホームドアが設置されるようになった。

東京メトロでは、1991年11月の南北線開業時に、日本の地下鉄として初のホームドアを導入したのだそう。2020年8月末時点では、180駅中143駅、じつに79%の駅でホームドアの設置が完了している。

 

そして、場所は飛んでニューヨーク地下鉄のホームについて。

全ての駅で乗降車したわけではないので一概には言えないが、さすがは120年の歴史ある鉄道、やけにホームが狭いのだ。

日本のような通勤ラッシュがないわけではないとのことだが、それでも、人間をギュウギュウ押し込むような光景は見られない。

 

ニューヨークに住む友人からも、

「ホームの端っこに立たないで。後ろから押されて線路に落とされるから」

と事前に忠告されたほど、ニューヨーク地下鉄の治安の悪さは有名である。

 

実際にホームに立ってみると、その狭さと暗さに思わず背筋が伸びる。日本のホームのように飲み物やアイスの自販機、さらにベンチが並ぶような、明るく安全な場所ではない。

とにかく、いち早く降車駅へ到着し、地上へ出たい気分にさせてくれる空間が広がっているのだ。

 

そのとき、わたしは思った。事件や事故の多いニューヨーク地下鉄こそ、ホームドアを設置するべきではないのか、と。

 

JETROによると、2022年2月23日に、MTA(米国ニューヨーク州都市交通局)のジャノ・リーバー会長兼CEOが、タイムズ・スクエア駅とサード・アベニュー駅、そしてサットフィン・ブルバード駅の3駅で、試験的にホームドアを設置することを発表した。

その背景には、犯罪や人身事故の増加だけでなく、地下鉄構内で暮らすホームレスや精神疾患のある人々の問題もあるようだ。

 

いずれにせよ、ホームが狭くて薄暗い空間だからこそ、早急に、ホームドアが全駅で設置されることを願いたい。

 

 

そしてもう一つ、大規模な商業施設やホテル、タワーマンションなど、大勢の利用者が見込まれる施設に設置された「エレベーター」について、思うことがある。

 

マンハッタンで滞在したホテルのエレベーターは、事前に行き先階をタッチすると、コンピューターが解析・予測した運行状況をもとに、わたしが乗るべきエレベーターが決定される仕組みだった。

そのため、目的階以外には停止しないことから、無駄な待ち時間がかなり減るのである。

 

これはかなり便利なシステムといえる。

デパートなどの混雑する場所でエレベーターを利用しようとしたところ、ようやく来た!と思ったら満員で、しぶしぶ見送った経験のある人は多いだろう。

そして隣りのエレベーターが、空っぽのまま交差するかのように通過していく姿は、憤りを通り越して怒りすら覚える。

 

しかし、

「エレベーターなんてこんなもんだろう」

と諦めていたわたしは、この最適なエレベーターを割り当てるシステムに深く感動した。

なぜ日本では、このようなシステムを採用しないのだろうか――。

 

調べたところ、日本でも東芝エレベーターや三菱電機で、リアルタイム割当制御機能付きのエレベーターが販売・導入されている模様。

とはいえ、直近で利用した羽田空港の駐車場ビルと、ANAインターコンチネンタルホテルには設置されていなかった。そしていずれも、待ち時間が長かったり、止まった階で誰も乗降しなかったりと、明らかに無駄な運行管理をしていた。

 

少なくともアメリカでは、10年前の時点ですでに導入されていたシステム。それを日本では実施できない理由があるのだろうか。

無駄なストレスを感じることなく、スムーズなエレベーター環境への早期改善を、帰国した瞬間から強く願うのである。

 

Illustrated by 希鳳

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