塩むすびの要求を頑なに拒否する友人のホスピタリティ

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私は、おにぎりが好きだ。

おにぎりのなかでも、塩むすびが大好きだ。

白米が好き、といっても過言ではないくらい、コメが好きなのだ。

 

とにかくおにぎりは、塩で味付けしただけ、もしくはそれに海苔がくっ付いただけの、シンプルなおにぎりがいい。

 

それこそが、おにぎりの醍醐味といえるからだ。

 

 

何年ぶりかに会った友人はかつて、私のためによくおにぎりを作ってくれた、命の恩人だ。

 

お腹を空かせた私を心配し、ことあるごとにおにぎり作ってきては私に与えてくれた。

 

その理由を聞くと、

 

「いつもおいしそうに食べてくれるから」

 

だそう。

そして、まるで餌付けをするかのように毎日おにぎりを与えてくれた。

 

 

「今日は混ぜご飯だよ」

 

「今日はタケノコご飯だよ」

 

「今日は大人のふりかけだよ」

 

毎回ラインナップの違う味付けだった。

 

さらに、「娘のお弁当の残りだけど」と、はにかみながらも小さなお弁当を作ってくれたりもした。

 

 

ある日、私は彼女へ

 

「私のために手間をかけさせるのも悪いから、簡単なおにぎりでいいよ」

 

と、遠回しに塩むすびを要求してみた。

 

 

翌日、手渡された2つのおにぎりはカラフルだった。

一つは、チャーハン。

もう一つは、混ぜご飯の素。

 

「今朝ね、時間なかったから、こんなのしかできなくてごめんね」

 

2つのおにぎりは、もちろん美味しくいただいた。

しかし、私は昨日、シンプルなおにぎり、つまり塩むすびを暗に要求したはずだが、なぜこんなにもカラフルで手の込んだおにぎりが届いてしまったのだろう。

 

そこでもう少し直接的に、塩むすびを前面に出してみた。

 

「こういう味付きのも美味しいけど、単なる塩むすびもいいよね」

 

 

その数日後、またおにぎりが差し出された。

 

「昨日ね、変わったおにぎりの素みつけたから、買っちゃった」

 

それは、鮭枝豆のような組み合わせだったと記憶している。

普通に考えて、まず組み合わさらないであろう2組が合体した、不思議なおにぎりだった。

 

その後も、肉みそおにぎり、ツナマヨおにぎり、あさりの炊き込みご飯、高菜めんたい、ひじきご飯などなど、決して白いおにぎりは出てこなかった。

 

 

たまりかねた私は、ある日、彼女へ質問した。

 

「どうして塩むすびは出てこないの?」

 

すると彼女は、

 

「えー、だってつまんないでしょ」

 

と答えた。

 

どうしたって、塩むすびのほうが簡単につくれるはずだ。

しかも受贈者である私が、塩むすびを要求しているのに、なぜ頑なに出してこないのだろうか。

塩むすびを拒む重大な理由が、あるのだろうか。

 

 

そんなある日、真っ白のおにぎりを渡された。

 

「ごめんね、今日時間なくて、こんなのしかできなかった」

 

ーーついにこの日が来た

 

私は心の底からお礼を言い、おにぎりを食べる時間がくるのを待った。

 

そしてランチタイム。

待望の塩むすびだ。

私は、真ん丸いソフトボールのような、大きな白いおにぎりにかぶりついた。

 

すると、

 

中から大量の何かが出てきた。

 

(なんだなんだ?)

 

それは、

 

なんとカニカマだった。

 

おにぎりの中からカニカマが出てくるとは、想像すらしなかった。

 

そもそも、カニカマとご飯の組み合わせは、アリなのか?

 

私は、ソフトボールの中からあふれ出る、紅白の細かいヒモをじっと見つめた。

 

一体、いつになったら塩むすびが出てくるのだろう。

なんて言ったら、塩むすびが出てくるのだろう。

 

 

あれから何年か経った。

久しぶりに会った友人に、あの頃の心境について尋ねてみた。

 

「んー、白米だけっていうの、私が好きじゃないんだよねー」

 

・・そういうことだったのか。

たしか、玉子焼きを作るにも、あるものなんでも混ぜてつくると言っていた。

最近、だし巻き玉子を覚えて作ったところ、娘から大好評だったとのこと。

 

「なんでこういうシンプルなの作ってくれなかったの?」

 

娘よ、そのセリフ、私も何年も前から感じていたぞ。

 

とはいえ、これらの行動はどれもこれも彼女のホスピタリティだと思う。

 

玉子焼きもおにぎりもシンプルが一番だが、食べる人に喜んでもらいたい一心に、あるもの全部混ぜ込んでみる、という彼女なりのおもてなし。

 

思い返せば、おにぎりがベストな状態で握られていたことは、ほとんどなかった。

 

なにかと混ぜることが好きな彼女は、炊き込みご飯を得意とした。

そして、炊き込みご飯の具材に水分を持っていかれてパサパサになったり、逆に水分が出てべちゃべちゃになったり。

 

そのつど、

 

「ごめんね、水の量が少なかったみたい」

 

「ごめんね、リゾットみたいになっちゃった」

 

と、健気に謝りながらおにぎりを渡してくる。

 

そして、ビールとカニカマが大好きな彼女は、ある日思いついたのだろう。

 

「こんなに美味しいカニカマとだったら、いいおにぎりができるかもしれない」

 

これまでも、これからもカニカマむすびを食べることはないかもしれない。

しかし、貴重な食体験と彼女のホスピタリティについて、忘れることはないだろう。

 

 

いつかまた、私におにぎりを作ってくれる機会があれば、今度はぜひ、塩むすびに挑戦してもらいたい。

 

決して、

「今日ね、ビールでおにぎり作ってみた!」

とならないことを祈る。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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5件のコメント

区役所のお昼、サランラップに巻かれた野球ボール状の物体の正体が2年?の月日を経て判明しました。

「塩むすび」だったんですね‼️‼️‼️‼️(笑)

ホーリー、ちゃんと読んだ??
塩むすびはまだ一度も出てきてないんだよ!
野球ボールは、中にカニカマが大量に入ってたんだよ🍙

ごめんなさい

だから、とうとう自分で握ったってオチかと

相変わらず読解力不足ですみませんw

でもスゴい懐かしいw

ちゃんと読んだwww

色々考えて眠れないとき、気分転換に最適ですw

未だに助けて頂きありがとうございます‼️

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