“However, before I am a athlete, I am a black woman.” ― アスリートである前に、人間 ―

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HUFFPOST(日本版)と ForbesJAPAN で、プロテニスプレーヤー大坂なおみさんの例にみる”アスリートとスポンサーの関係性”についての記事が出た。

 

全米オープンで2年ぶり2回目の優勝を果たし、米国ニュース誌「TIME」が選出する「世界で最も影響力のある100人」にも名を連ねた大坂選手。

実力もさることながら、チャーミングな表情とストレートで思いやりのある言葉を使ったメッセージが、多くの人々の支持を集めている。

 

そして現在のスポンサー企業は、ナイキ、ANA、シチズンなど大企業を中心に15社を誇る売れっ子アスリート。

 

大坂選手は、先月行われた全米オープンで、BLM(Black Lives Matter)運動の発端となった、黒人暴行事件の犠牲者の名前が書かれたマスクを着用。

決勝までの試合回数である「7枚」を用意した。

 

試合前、

「悲しいのは、犠牲となった人々の名前を出すには、7枚のマスクでは足りないということ。

それでも、ファイナルまで進んですべてのマスクを見せたい」

と発言。

 

そして彼女が勝ち進むたびに、犠牲者の名前が世界中へと配信された。

 

見事2度目の全米オープン優勝を果たした大坂選手。

インタビュアーからの

「7枚のマスクから、どんなメッセージを伝えたかったか?」

との質問に対して、

 

「逆に、あなた(インタビュアー)はどんなメッセージを受け取りましたか?

(中略)私は、より多くの人々が人種差別について話し合うきっかけとなってくれれば、と思っています

と語った。

 

 

このアクションは予想通り、賛否両論を巻き起こした。

 

では大坂選手をサポートするスポンサー企業はどのように受け止めているのか、ハフポスト日本版はパートナーやスポンサー企業に対してコメントを求めた。

 

提起された問題がデリケートなため、明言を避ける企業がほとんどのなか、唯一ヨネックスが大坂選手に対して共感を示すコメントを出した。

当社は『独創の技術と最高の製品で世界に貢献する。』を経営理念とし、「ヨネックスの国籍は世界」としております。

スポーツに国境や人種差別はあってはならず、わたしたちは世界中のスポーツをするすべての方に楽しんでいただきたいという願いの中で企業活動を行っています。

大坂選手の行動はわたしたちの基本姿勢と通ずるものであると考えており、当社はその行動を尊重します。(ハフポストより引用)

 

アスリートの行動や発言が、社会に対して大きな影響力を持つようになった近年、スポンサー企業との関係性も変化しつつある。

成績優秀、品行方正、だれもが認めるお手本アスリートこそ真のアスリート、という「アスリート聖人君子説」は、とても魅力的な偶像誕生といえる。

 

しかし、アスリート本人にとっては自己を隠し、スポンサー企業が望む「理想のアスリート」として振る舞わなければならない。

自論(意見)を述べることも、それに対して反論することも規制される。

「しゃべるくらいなら黙れ」

という風潮が、右へ倣(なら)えの日本にはあるからだ。

 

商業目的でアスリートをシンボライズするならば、アスリート本人の人間性までレファレンス(調査)したうえで、スポンサー契約を締結すべきだ。

 

個人は尊重せず、競技における成績や外見(容姿)だけで人選を行うことは、アスリートにとって ”いい子でいなければならない” という負担以外の何ものでもない。

 

SNSが発達した現代において、どんなに個人の口を塞ごうが真実はどこかで漏れ伝わる。

もしかするとそれは、死をもって示されることもある

 

 

アスリートはお飾りではない。

個人の尊重、つまり思想や言論といった自己発信の自由は保証すべきだろう。

 

 

ディベート下手な日本人は、とにかく議論が苦手。

根拠の乏しい意見は感情論に近く、立場が上の人間にはYesしか言わない。

あげく、立場が逆転したときの反論などできるはずもない。

 

 

「沈黙は金」の意味をはき違えてはならない。

他人に作られた偶像を演じて亡骸となるくらいなら、自ら発信して切り捨てられたほうがマシ。

 

黙らせることが大事なのではない。

議論しつづけることのほうが、よっぽど大事だ。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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