路上で寝転ぶベテランが放つオーラ

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ホームレスというか、普段から路上で寝泊まりをしている「その道のベテラン」と、たまたま終電を逃して寝そべっている「素人」とを、一瞬で見分けられる人はいるだろうか。

スーツを着ていたりバッグを持っていたり、身なりからなんとなく、ホームレスではないことが分かる場合もある。だが、どこが違うのかを具体的に示すことが難しいケースも多い。

 

先日、終電後の品川駅を歩いていたところ、地面に横たわる二名の男性を見かけた。

 

品川駅は高輪口と港南口とに分かれており、およそ600メートルくらいだろうか。屋根付きの通路で繋がっているため、雨風を凌ぐには最適の場所といえる。

しかし不思議なことに、ゴロゴロ寝転んでいそうなホームレスが、まったくもって見当たらないのだ。

 

似たような場所で、新宿駅の西口から都庁方面に延びるトンネルも、野宿に適した場所である。だが道幅が狭いためか、酔っ払いが倒れている程度で定住者はいない様子。

さらに、通路に設置されているオブジェは尖がっており、そこで寝たら「中世の拷問」が再現できそうな作りのため、誰も居座ったりしないのだろう。

 

しかし品川駅構内の屋根付き通路には、そのような拷問オブジェもなければ、深夜でも安心安全の照明が確保されており、治安の良さがうかがえる。

さらに、10月とはいえ最低気温は16度ほどあるため、路上で眠っても死にはしない。

これほどの好条件が整っているにもかかわらず、なぜホームレスが寄りつかないのだろうか――。

 

不思議に思いながらも歩を進めると、高輪口の手前でようやく、冒頭の二名を発見したのであった。

 

(おぉ、いるいる。やはりここは快適な空間なんだろうな)

 

そんなことを思いながら手前で寝転ぶ男性を見ると、高いびきでグーグー気持ちよさそうに爆睡している。

しかしどこかよそ者のような、この場にそぐわない雰囲気をまとっていた。

 

(なんだろう、この違和感は。新参者なのかな・・)

 

そして、奥で寝ているもう一人の男性を見た瞬間、わたしは、根拠のない自信というか、確証はないが間違いなく断言できる「事実」を目の当たりにした。

――そう、彼こそが正真正銘のホームレスだ!

 

どんなに安物の衣服を身につけていても、どこからともなく溢れ出る「育ちの良さ」というのは隠せない。

また、どんなにバカ話で盛り上がっても、言葉の端々から感じる「知性」というのも、隠すことはできない。

 

同様に、ただ単に地面で寝ているだけであっても、その道のプロとそうじゃない者とでは、醸し出す雰囲気、いや、オーラが違うのだ。

 

語彙力不足が悔やまれるが、見た瞬間に奥の男性は「ベテラン」であることがハッキリと分かった。

身なりが汚いとか段ボールに包まっているとか、そういった特徴は見当たらない。むしろ立派な寝袋にもぐりこみ、ここが高原や山の上ならば、完全に「ソロキャンプを楽しんでいる人」といった感じにも見える。

 

だが、壁のほうを向いて熟睡するその背中からは、圧倒的な存在感と紛れもないプライドが放たれていた。

 

わたしは思わず立ち止まり、手前の男性を見返す。――うん、間違いない。彼は終電を逃したため、今夜だけそこで寝ている素人だ。

 

彼らの見た目に大きな違いは見られない。そしてどちらも、地面に寝そべり休息をとっている。

にもかかわらず、一方からは安定の存在感がビンビン伝わり、もう一方からは恥じらいにも似た、申し訳なさのようなものを感じるのだ。

 

どんな物事にも「その道のプロ」は存在する。そして彼らから放たれる自信に満ちたオーラは、長年積み上げてきたキャリアの賜物。

そんな見えない何かを、奥の男性からは明らかに感じるのである。

 

これからの季節、外で寝泊まりをするには厳しい環境条件となるが、スヤスヤと眠る彼が、暖かい春を迎えられることを祈る。

 

サムネイル by 希鳳

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