高度一万メートルにおける回収作業

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わたしは今、太平洋の上にいる。にもかかわらず、こうしてインターネットに接続し、仕事をしたり記事を投稿したりできるのだから、便利な上に贅沢である。

 

おまけに、大好物のコーヒーが飲み放題とくれば、こんなにも素晴らしい環境は他にないだろう。

ギャレーにストックしてあるブラウニーもキットカットも、すべてわたしの胃袋に収めたわけで、もはや航空券が高かったことなど帳消しになったはずである。

 

 

羽田空港からの離発着を優先したわたしは、LCC(格安航空会社)という経費節約の選択肢を失った。

その分、買い物から支払いまですべてを集約させた楽天カードの、ポイントをぶち込むことで旅費を抑える作戦に出た。

 

しかしながら、予想以上の円安と燃油サーチャージの高騰により、わたしの楽天ポイントは儚くも散った。

それならば現物で回収するしかないと、搭乗開始前から列の先頭に並び、同グループの中では真っ先にボーイング787の床を踏んでやった。

そして、ありとあらゆるサービスを享受するべく、可能な限りの贅を尽くしているところである。

 

コーヒーのおかわりを何回しただろうか。キャビンアテンダントも、わたしの座席からのコールランプがつくと、自ずとブラックコーヒーを持って現れるようになった。

「ついでにスナックも・・・」

これも毎回であるため、隣りに座るアメリカ人も驚きの品々が登場した。サンドウィッチにパウンドケーキ、抹茶チョコ、おかき、ポテトチップスなどなど、機内に積んであるありとあらゆる食糧が運ばれてくるのだ。

 

飲み食いと排出を繰り返すうちに、とうとうスナックのストックも底を尽きてしまった。そこでわたしは、食事に付いてくるパンの余りとバターを持ってきてほしいと頼んだ。

もはや苦笑いのキャビンアテンダントと隣りのアメリカ人。だがこちらも真剣勝負なわけで、生半可な気持ちでは挑んでいない。

 

そういえば、かつてイギリスへ向かう機内で、ハーゲンダッツアイスの在庫を一挙に引き受けたことを思い出す。

あのときも、食後のコーヒーをおかわりしながら、

「アイスの余りはないの?」

と尋ねたところ、茶目っ気たっぷりの若いクルーが、両手いっぱいにハーゲンダッツを抱えてわたしのところへ戻って来たのだ。

 

「好きなだけどうぞ」

 

なかなかオツなジョークをかます女性である。

とりあえず5個ほど食べた時点で、残りのアイスが溶け始めた。周囲の乗客に「アイス食べない?」と売りつけるも、怪訝そうな顔で断られる。

しかたなく席を立つと、前方で赤ちゃんをあやしている、アフリカ系の民族衣装に身を包んだ母親に近づき、アイスを勧めてみた。最初は驚いたような、それでいて訝しげにわたしを注視していたが、しばらくすると、

「ありがとう。さっきのアイス食べ損ねたのよ」

と、笑顔で受け取ってくれた。

 

(そうか。食事のときに赤ちゃんの世話をしていたから、アイスを食べられなかったのか)

 

であればもっと早く届けてあげればよかった。容器を掴めばフニャフニャするようなアイスより、指が凍傷になるほどの固形状態で手渡したかった。

母親は自分のことより我が子を優先する。ましてや赤子となれば、おちおち寝てもいられまい。そんな多忙な母親に、せめて少しでも美味しいハーゲンダッツを食べさせてあげたかった。

 

――そんな後悔の記憶がよみがえる。

 

そして今、残り物のパンを頬張りながらキーボードを叩いているわたし。

軽食も含めると、かれこれ5回は食事を済ませたことになる。コーヒーなど15杯近く飲んでいるわけで、かなりのハイペースで航空運賃の回収ができているのではなかろうか。

 

(空の上ということを考慮して、コーヒー一杯500円だとして・・・ダメだ、全然元が取れてない!)

 

あぁ、回収ノルマは「コーヒー100杯」といったところか。

 

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