超音波トラップにハマる私の前世はハエに違いない

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なぜか私は高周波の超音波に引っかかる。超音波は目に見えない。よって、通行中にいきなり飛んだり倒れこんだりする私を見て、「やばい奴だ」と思うだろう。

 

しかしそこには高周波(20kHzくらい)の超音波が発生しているということを、予め伝えておきたい。

 

**

 

東京は超音波で溢れている。先日、東京ミッドタウン日比谷の地下にあるRINGO(焼きたてアップルカスタードパイの専門店)を訪れた。

友人との待ち合わせは店舗の正面。私は、地下鉄日比谷駅から地下通路を通って店舗へと向かった。

 

 

東京ミッドタウン日比谷は、2018年3月末に旧・三信ビルの跡地に誕生した。つまり、既存のビルや地下道をくっ付けて完成したわけだ。そんなミッドタウン日比谷は「日比谷駅」から地下道で直結する。その日比谷駅は、東京メトロ千代田線・日比谷線 ・都営地下鉄三田線が乗り入れる、由緒ある老舗の駅。

古い駅と新しい施設をくっ付けたのだから、地下通路もどこか不自然なところがある。

 

 

店舗に近づいてきた。友人の姿が見える。

(あ、こちらに気がついた)

友人に向かって手を振ろうとした瞬間、

 

私は鈍器で頭をおもいっきり殴られた。

 

正確には「殴られたように感じた」。その場に崩れ落ちた私は、自分に何が起きているのか分からなかった。

そして、10メートル先の友人は恐怖に怯えていた。

 

 

私は立ち上がり周りを見渡した。通行人が奇異の目で見る。とりあえず鈍器で殴られた(と思われる)辺りを調査した。手でササッとやっても何もない(当たり前)。

 

(気のせいかもしれない、もう一度通過してみよう)

 

私は再度、友人へ向かって歩き出した。

 

「うわっっ!!!」

 

雄叫びをあげながら、またしてもその場に崩れ落ちた。

 

——何かがおかしい

 

目に見えない何かが私の行く手を阻むのだ。そこへ、目の前の友人が電話をかけてきた。(どうせならこっちくればいいのに)

 

「もしもし?何してんの?」

「わかんない、何かにぶつかる」

「はぁ??恥ずかしいから早くしてよ」

「行きたいのに行けないんだよ!」

 

話しながら私はひらめいた。——もしかすると高さの問題かもしれない。

 

そこで今度は、地面に這いつくばるようにして進んでみた。

 

「ぐわっっ!!!」

 

——ダメだ、はじかれる

 

ならばと通路の端へ行き、壁に沿って進んでみた。

 

「いてっっっ!!!」

 

どうしたって脳みそに突き刺さる衝撃が走る。その場でへたり込んだ私を、多くの通行人が避けながら通り過ぎていく。

 

——こんなこと、前にもあったな。

 

 

10年前。友人の選挙の手伝いで私は大阪にいた。とある集合住宅へビラ投函したときのこと。建物の門をくぐろうとしたとき、私だけが何かにぶつかり、抱えていたビラをバラまいてしまったのだ。

「なにしてんねん!」

友人は驚きながら怒った。何もないところでビラをぶちまけたのだから、怒られて当然だ。そしてその場にいた全員でビラを拾い集め、再び門をくぐろうとしたところ、

 

「イテッ、だめだ!!」

 

またもや私だけが何かにぶつかった。メンバーの一人から、

「おまえ霊感あんの?」

と怪訝そうに聞かれたが霊感はナイ。とりあえず、私以外のメンバーで投函作業をすることになり、残された私はこの怪奇現象を解決するために周辺を調査した。そして多分、わかったことがある。

 

原因は、門の左右に設置されている小型装置だ

 

ここから何らかの音波が出ている。早速、その装置をググった。どうやら昆虫や小動物の侵入を防ぐために、高周波超音波を発生させる装置らしい。

——これに引っかかったのか。

 

そういえば私はクモが大嫌いだ。もちろんクモの巣も大嫌いだ。ゴキブリやムカデよりクモが怖い。クモ恐怖症であることと、高周波の超音波に引っかかることから推測するに、

私の前世がハエや蚊といった飛翔する小昆虫、つまり、ハエ目に属する虫だったのではないか。

という結論に至った。じつにしっくりきた。

 

 

ミッドタウン日比谷へたどり着けずへたり込む私。その地下通路の側壁に、いくつもの小さな穴を発見した。

——これだ!ここから超音波が出ているんだ!

 

私は立ち上がり、大きく息を吸い込んだ。そして両手で耳を塞ぎ、

「わーーーーーーーーーっ」

と叫びながら通路を駆け抜けた。その結果、ようやく超音波地獄から抜け出せたのである。

 

恐れ慄く友人は、柱のかげに隠れた。

 

**

 

ネットで「高周波 超音波 虫」と検索すると、いくつもの動画が出てくる。所詮動画だが、試しに20kHzのモスキート音を再生してみた(音量は最低にして)

(ん?別になんともない)

おかしいなと思いながらスピーカー部分を自分に向けた途端、

 

「ぐわっっっ!!!!」

 

脳に突き刺さる攻撃的な超音波に、握っていたスマホを落とした。

 

——間違いない、これだ。

 

 

都内には超音波トラップが多い。地下鉄日本橋駅もその一つだ。日本橋駅から地上に上がろうとすると、このトラップが張ってある。いつも私はここで15分ほど(覚悟を決めるために)格闘している。

 

どうか私と待ち合わせをする際は、日本橋や日比谷は避けていただきたい。そうでないと、高周波トラップにかかった私が衰弱してしまうからだ。

 

サムネイル by 鳳希(おおとりのぞみ)

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