公共交通機関における最大の敵は、ニオイがキツイ奴と肥満体だ。そちらに悪気はないかもしれないが、こちらにとったら「悪」でしかないため、差別だのハラスメントだの屁理屈で絡まれるのは御免である。
だが、そんな憎しみが時には滑稽な瞬間を生み出すこともある・・ということを知り、なんとも複雑な気持ちになる出来事があった。
それは、仕事を終えた屍(しかばね)で混雑する有楽町線車内でのこと。相変わらずの混みっぷりにうんざりしつつも、運よく頭上にあった手すりにつかまりながら電車の揺れに耐えていたところ、気づくと二人のデブ・・いや、肥満体の男性がわたしのやや前方の両脇を陣取っていた。
例えるならば、ミッキーマウスの「耳」の部分が肥満体二人で「顔」の部分がわたし——というような配置のため、両側からびっちりと挟まれているわけではないが若干テリトリーを侵害される構図だった。言うまでもないが、身動きが取れないほど過密した車内で、「己のテリトリー」などを主張するつもりはない。そのようなパーソナルスペースを確保するならば、別料金を支払って空間を購入しなければ、フェアじゃないのは当然のこと。
そんなわけで、自立のみでバランスを保つのは到底無理な状況で、わたしは右手でつり革を握り、左手でスマホを支えながらネットフリックスを視聴していた。ちなみに、アニメや映画を見る際はスマホを横にするのだが、わたしの置かれた状況はミッキーの「顔」部分であるため、両脇に位置する「耳」となる二人の腹がせり出していることから、彼らに挟まれそうになる我がスマホをどうにか維持しつつ動画を見ていた。
だが、次の駅でさらに乗客が乗り込んできたことで車内の過密さが増し、がんじがらめの状態に陥ってしまった。しかしながら、今スマホを支える手を緩めれば周囲のプレッシャーに押し負けた結果、画面がわたしの視界から消えることになる。そうなれば、ただ単に拷問状態に身を委ねることとなり、最悪な時間を過ごすこととなる——それは嫌だ。
そこでわたしは、意地でもスマホを横向きに維持するべく奮闘した。とにもかくにも、目指すは肥満体ツートップの「腹」による圧迫攻撃を交わすこと。
(あぁ・・こいつらが太っていなければ、こんな無駄な労力を使うこともなかったのに)
そんな文句を言いたくなるほど見事に突き出した二つの腹を、スマホの天地で跳ね返しながら動画の視聴を継続していたところ、わたしはとある事実に気が付いた。それは、「このスマホを支えているのはわたしではない」ということだった。
左手に重さを感じなくなったわたしは、そっとスマホから指先を離してみた——う、浮いてる!!
要するに、両側にあるパンパンに飛び出た腹がスマホを押し込んでいることで、ちょうどいいバランスが保たれていたのだ。それに加えて、二人のサラリーマンが着ているアウターの素材も素晴らしかった。一人はスウェード素材のコートで、もう一人はモコモコのダウンジャケットだったため、薄っぺらいスマホが滑り落ちることなく見事にキープされたのだ。
このような”奇跡のコラボ”が発動した結果、わたしは自らの手でスマホを支えずとも、肥満体二人の「腹ホルダー」によって動画を楽しむことができた。あえて贅沢を言うならば、右手のつり革から手を離した状態・・つまり完全フリーな状態が確保出来たらベストだが、さすがにそれはやりすぎである。
そんなわけで、二駅ほどの短い間ではあったが、赤の他人の腹を使って自分のスマホを支えつつ動画を視聴する・・という、謎のシチュエーションを満喫したわたしは、「場合によっては、肥満体というのも悪くはないのかもしれない」と思うのであった。
(にしても、彼らに意地悪されていきなり腹を凹まされたら、スマホ落としてたな・・)




















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