というわけで、わたしは今ラスベガスにいる。そして、友人宅の庭に椅子を持ち出し、深夜の夜空を眺め・・いや、にらみつけながら、今か今かとUFOの出現を待ちわびているのだ。
ここネバダ州は、UFOの目撃情報が世界最多といっても過言ではないほど、多くの住民がその存在を認識している。東京でいうところの「昨日も、酔っぱらって駅のベンチで寝てる人見たよ」と同じくらい、ここで暮らす人々はごく自然にUFOと隣り合わせの生活を送っているのだ。
ちなみに昨年はというと、かなり粘ってはみたもののUFOらしき物体を視認することはできなかった。まぁ、あちら(UFO)側としても、ミーハーな観光客相手にあっさり姿を見せるつもりはないだろうから、ならばと”宇宙からの使者”と噂される「猫」を引き連れて、少しでも近しい存在であることをアピールする作戦に出てみたのだが、結果は空振りに終わった。
しかしながら、今年こそはUFOと遭遇できる気がしてならないわたしは、今回も猫を従えて——しかも、より神秘的な「黒猫」を足元に置いて、UFOの登場を待つことにしたのだ。
(えっと黒猫はどこだ・・おぉ、そんなところに座っていたのか)
夜11時過ぎ、リビングから庭へ出るとそこには真っ暗な世界が広がっていた。そもそもアメリカという国は、都市部から離れた郊外や住宅地では街灯が少ない傾向にある。なぜなら、国土が広大であるため車での移動が一般的である上に、明かりが少ないほうが星空がきれいに見える・・といった「光害対策」の一環として、あえて街灯を少なくしている地域もあるからだ。
そんな”突然の暗闇”に身動きが取れなかったのもつかの間、目が慣れくると暗いなりに色々なものが見えるようになった。庭に生えた木や隣の家との境にある塀、そして宇宙からの使者たる猫の存在も、ぼんやりと視認できるようになったのだ。
凛とした雰囲気を纏い、背筋をピンと伸ばし微動だにせず座っている黒猫のそばへ歩み寄ったわたしは、静かに腰を下ろすとそっと背中を撫でた——え、これ猫じゃない!!
なんと、わたしが黒猫だと思って撫でたのは”樹脂製の黒いジョウロ”だった。どうやら、庭の草木に水をまく用のジョウロが置いてあり、暗がりの中でそれを「黒猫」と勘違いしたのだ。
そして、そんな失態を鼻で笑うかのように、本物の黒猫がわたしの足元をすり抜けて行った——チクショウ!ちょっと恥ずかしいスタートを切ってしまったじゃないか。
*
こうして、マグカップになみなみと注がれたバニラフレーバーのKauai Coffeeを片手に、膝にはラップトップ、足元には猫二匹を待機させた状態で、わたしはラスベガスの夜空を見上げているのだ。
先ほどから、頭上を右から左へ飛んでいく物体が何機もいるが、残念ながらUFOではない。まだ見たことがないので断言できないが、おそらくUFOならば一瞬でそう判断できるのだろうから、あれは間違いなく人間が作った飛行機だ——。
とはいえ、ラスベガスでの滞在は始まったばかりだし、UFOとの接触もじっくりと腰を据えて挑む所存であるわたしにとって、初日で目的を達成してしまったのではネタに困る。
よって、とりあえず特筆すべき渡米初日の出来事としては、「ものすごく気を使いながら優しく撫でてあげたのは、猫の背中ではなくジョウロの取っ手だった」ということくらいだろうか。
——あぁ、人生とはなんとも愉快なものである。
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