関西と関東で話題に違いがあるとは思えないが、大阪の若い男女の会話がなかなかシュールで印象的だった。
東京の若い男女は、比較的大人びた内容の会話をしがち。ややもすれば、無理に背伸びをした内容といえなくもないほど、社会経験豊富なこちらが圧倒されるような議論を重ねたりする。
大阪の中心部・梅田にそびえ立つ大丸の二階に、私のサテライトオフィスであるスタバがある。さっそく店内に席を陣取ると、ドリップやアメリカ―ノ、オーツミルクラテなどをすすりはじめた。
だが5分もしないうちに、短パンを履いた自慢のダイコン足に鳥肌が現れた。さらに10分が経過する前に、心肺停止になりそうなほど全身が冷え切ってしまった。そう、エアコンが効きすぎているのだ。
(やばい、このままでは死ぬ・・・)
短パンにノースリブシャツという、やけに布面積の少ない格好をしている私は、低体温症を意識するほど青ざめている。そこでやむなく、外の席へと移動することにした。
たまたま空いていた一人掛けのテーブルに座ると、生温かい大阪の風を浴びながら、再びコーヒーブレイクを始めた。
充電ができない一人、というのは意外とヒマなものだ。たとえば溜池山王駅の改札の目の前にあるスタバならば、電源があるのでスマホを充電しながら過ごすことができる。骨董通りのスタバも、窓側のカウンター席にはコンセントが付いているので、そこを確保できれば長時間居座ることができる。
だが梅田大丸のスタバには、コンセントの穴が存在しない。それどころか、壁に設置されているコンセントにはガムテープが貼られており、
「お前らにやるアンペアなどナイ!」
と強い意思表示がされているのだ。
モバイルバッテリーも持っていない私は、一人ぼーっと遠くを眺める。すると、右隣りのカップルと思しき男女の会話が耳に入って来た。
「オレが好きになった女性に、旦那と子どもがいたらどないしよ?」
「んー、子どもと旦那を殺すしかないんちゃう?」
「せやな。でも殺したらバレるやん?」
「んー、ほなバレないようにヤる!」
「はぁー、難しいな。ヤバッ!どないしよ?」
ちなみにこの会話、まったくの架空ストーリーである。妄想とでもいおうか。隣りの男子は人妻を好きになったわけでもなく、そういう現実に直面し苦悶しているわけでもない。本当に「仮の話」なのだ。
そして向かいに座る女子は、どうやら彼女ではない。彼女は彼女で好きな男の相談をしていたからだ。
変なカップルもいるもんだ、とため息をついたところ、今度は左側に座るカップルの会話が聞こえてきた。
「梅雨、明けたんかな?」
「明けたやろ、めっちゃ晴れてるやん」
「でも誰?総理大臣とか言うてた?梅雨明けましたーって」
「総理大臣は東京におるから、気づいとらんのちゃう?」
「あー、ありえる。そしたら大阪はもう梅雨明けやな」
おいおい、梅雨明け宣言は総理大臣の仕事なのか?!その発想にもびっくりだが、このゆるい会話が成立することにも驚きだ。むしろ感動すら覚える。
東京の若いカップルが、このようなシュールな会話をするとは思えない。たとえば時事ネタや、ファッションやスイーツなどの話題で盛り上がるはず。そこには半分くらい知識自慢も入っているのだが、それでも聞いていて初々しさを感じるような、若者らしい自慢大会である。
それに比べて大阪の若いカップルは、本気でどうしようもないネタを延々と話し続けているのだ。かれこれ30分以上、同じようなくだらない話題で会話が成立しているわけで、ある意味奇跡。
(これが芸人を生む文化なのか・・・)
もしかすると、日常でのくだらなさが有名芸人を誕生させる秘訣なのかもしれない。もはや間違いを正すレベルではない。その会話自体が、シュールであり芸術といえるからだ。
*
それにしても、大阪駅の環状線に物申したい。同じホームで向かい合う内回りと外回りを、同じ時刻に発車させるのは止めてもらいたい。
目的地までのルートをナビで調べたはいいが、ホームの左右で同時刻に環状線が発車する場合、いったいどちらの電車に乗ればいいのか、よそ者には難しいからだ。
「あの、森之宮へはどっちに乗れば・・・」
「こっちやで。案内したろか?」
・・・大阪人はフランクで親切だ。
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