東京都社労士会会報8月号をパラパラとめくっていたところ、「精神障害の請求件数、支給決定件数が大幅に増加」という記事に目が留まった。
内容を見ると、ここ5年間における”過労死等の労災補償に関する請求件数”が「2051件」から「3780件」と倍近く増えており、それに伴い支給決定の件数も「1055件」と、1000件の大台を超えてしまった。さらに、請求件数の業種別では「医療・福祉」が最も多く、次いで「製造業」、「卸売業・小売業」の順となっている。また、職種別では「専門的・技術的職業従事者」が三分の一を占めてトップ(医療・福祉の従事者も含まれている模様)、そして「事務従事者」、「サービス職業従事者、販売専従者」・・という並びになっている。
ちなみに、年齢別では40代が最も多い結果だが、出来事別決定件数の内訳によると「上司とのトラブルがあった」、「上司から身体的・精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」など、上司が関わることで精神障害を発症したケースが圧倒的な上位を占めた。
続いて「仕事内容・仕事量の大きな変化を感じさせる出来事があった」、「同僚等のトラブルがあった」、「顧客の取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」など、こちらもほぼヒトが原因となるトラブルであることが分かる。
・・それにしても、40代というのはあらゆる意味で”自由が利かない年代”といえるだろう。
たとえばプライベートにおいて、住まいを購入したり家族ができたりすることで、強制的な出費が義務化されるのもこの年代。そうなれば安定的な収入が必須となるため、今まで働いてきた会社と馬が合わなくても、そう簡単に辞めることなどできない。
さらに、役職的に中間管理職と呼ばれる微妙な立場に立たされるのも40代だろう。
とくに「管理監督者」に該当してしまうと、労働時間は自身の裁量で決定するため、法律上の労働時間や休憩・休日に関する制限から除外される。それにより、一般社員を残業させないように自らが仕事を請け負ったり、自身の業務に加えて部下の育成や仕事の進捗管理をこなしたりと、明らかにキャパオーバーを強いられる可能性があるのだ。
これは、すなわち”働き方改革のしわ寄せ”といっても過言ではなく、多くの労働者を守るために一部の労働者に無理をさせた結果、水面下で生じた歪が「メンタルヘルスの不調」という形で表れているのである。
あとは、40代というのは体力の衰えが顕著な年ごろとも言われている。「オール(徹夜)ができなくなった」、「脂の乗ったカルビが厳しくなった」、「翌日まで疲れが抜けなくなった」などなど、加齢による衰えに抗えなくなるのが40代といわれている。もちろん、個人差はあるので20代よりも元気な40代もたくさんいるわけだが。
・・話を管理職に戻そう。マイナビ転職による「管理職の悩みと実態調査(2025年1月9日)」において、「管理職になって、人生はどう変わったか(ネガティブな変化一覧)」という質問に対して、8割弱が「仕事の比重が増えた」と答えている。
続いて、「心身の健康が損なわれた(68.9%)」、「プライベートや家族との時間が楽しめなくなった(55.4%)」という悲しい回答が半数を占め、あげくの果てには「転職を考えるようになった(43.5%)」、「「自分の人生が望まない方向に進んでいると感じる(39.0%)」、「交友関係が減った(38.9%)」、「自分に自信がなくなった(33.5%)」などなど、もはや何のために働いているのか分からない状況に陥っているわけだ。
仕事の裁量や責任が増える分、一般社員では関与できないレベルの業務に携われたり、自身のキャリアを次のステージへと上げることができたり、得られるものが大きいのは事実。しかしながら、その犠牲となるのが自身の人生だとしたえら、そんなバカげた話はないだろう。
そもそも、AIのサポート・・というかAIを使った業務効率化が実装できていない現在において、形式上の”働き方改革”をごり押しした先に待ち受けるのは、管理職への負担でしかない。国や会社は大手を振って働き方改革を推進すればいいし、一般社員は残業を減らしてプライベートを充実させればいい。その結果、両方を満足させるために四苦八苦するのが、間に挟まれた管理職なのだから——。
個人的にも、中間管理職世代の労災案件の相談が増えたように感じる昨今、プライベートを殺してまで会社に貢献する必要はない・・ということを、声を大にして伝えたい。
言うまでもないが、カネなんてなくてもどうにかなる。見栄や固定概念を捨てれば、いくらだって生きていけるのが我が国・日本の特徴。むしろ、カネでは手に入らない出会いや体験、ヒトとの繋がりのほうがよっぽど重要だろう。
しつこいようだが、カネで手に入るのは安価なものでしかない。なんせ、カネで買えるくらい「どうにかなるもの」なんだから。そんなものに心血を注ぐあまり、人生をつまらなくさせるのはやめたほうがいい。なぜなら・・そんな人生ではもったいないからだ。
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