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マンションの集合ポストがあるエリアへ足を踏み入れた瞬間、絶句するような光景が飛び込んできた。まるで、酔っ払いが頭からゴミ箱に突っ込んだような・・いや、一杯になったペットボトル専用ゴミ箱へ、さらに強引に押し込んだペットボトルが溢れ出ているかのような、そんな「明らかに強引な状況」を前にして、わたしは思わず立ち止まってしまった。
なんと、奇しくも我が部屋の郵便受けから、茶色い紙袋のケツがベロンと飛び出た状態で放置されているではないか——。
一瞬、なにかの嫌がらせかイジメにでもあっているのではないか・・と心配したが、それにしてはちゃんとした物が入っていそうな袋であるため違う感じがする。ではいったい何なんだ・・というか、この紙袋の質感は——Amazonだ。
そう、ベロンと飛び出た茶色い紙袋の正体は、昨日Amazonで購入した商品だったのだ。郵便受けの投入口からは入りきらなかったため、先端だけ突っ込んであとは諦めたのだろうか。まさに”頭隠して尻隠さず”を再現したかのような、むしろ「ギャグとしての作品(オブジェ)を残してくれたのだ」と信じたいくらいの、見事な違和感を作り出していた。
とりああえず、その”哀れなオブジェ”を引き抜くと、わたしはさっそくAmazonのサイトを開いた。
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オンラインショッピングの代表格であるAmazonならば、良くも悪くも顧客からのクレームは多いはず。ゆえに、それなりの対策を練っているだろうし、「これでもか!」というほどAIを駆使した”最新の謝罪対応”が待っているはず——。
そう思いながらカスタマーサービスのページを見渡すも、わたしが望む選択肢が見つからない。検索窓で「配送に関すること」と入れても、見当違いな定型文へと案内されるだけで一向に解決しない。
(・・なんで、画像や動画を送れるチャットになってないんだ)
Amazonともあろう一流企業が、この期に及んで「シナリオ型のチャットボットを使っている」という現実には、驚きを通り越して呆れてしまう。ウーバーイーツでさえ、商品の状況を画像送信できるフォームがあるというのに、Amazonはまるでクレームを恐れているかのような、逃げ腰かつ不誠実なサービスしか用意されていないことに失望するわたし。
とはいえ、どうにかしてあの「犬神家の一族のワンシーンの横版」に似た状況を伝えたいため、やむを得ず”カスタマーサポートから電話をもらう”というボタンをクリックした。
「ご連絡ありがとうございます、Amazonカスタマーサービスです」
すぐさま自動音声による着信があり、そのガイダンスに従って「8」を押すと、人間のオペレーターへと繋った。そこで現れた女性は、キャリアも長いであろうこなれた口調(顧客からのクレームを受け入れる気満々のトーン)で、丁寧かつ穏やかに第一声を放った。
無論、怒る気など毛頭ないわたしは、帰宅するなり飛び込んできた衝撃の光景を淡々と伝えたところ、女性オペレーターは非常に申し訳なさそうな声質で「大変申し訳ございませんでした。配送に関する担当へお繋ぎしますので、少々お待ちください」といって電話を保留にした。
(はぁ・・たらい回しかよ)
クレーマーというのは、とにもかくにも待たされることで沸点が低くなりキレやすくなる。よって、たらい回しにすればするほど無条件で憎悪が増すのだ。にもかかわらずAmazonときたら、AIを使えばもっと手前で解決できたことを、あえて人間を出すことでイライラを助長させるとは、世界最大のECサイトが聞いて呆れるわ——。
そんなことを思っている途中で、すぐさま次の担当者が現れた。
「お客様、この度は配送のことで非常に不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございませんでした」
一見、何の変哲もない単なる丁寧な謝罪文。ところが、プロの謝罪師がこれを口にした途端、わざとらしいほど平身低頭かつ電話の向こう側で何度も頭を下げている姿が想像できるから恐ろしい。
(あぁ、これはこのオジサンの勝ちだわ)
繰り返しになるが、今回の件で「怒り」というものを一ミリも感じていないわたしは、ただ単にこの事実を伝えたかっただけである。商品が入った紙袋の先端を、郵便受けに無理やり突っ込む・・というやり方に、なんの違和感も覚えない人間(日本人)がいるとすれば、仕事の在り方としてどうかと思う。よって、状況を把握できる画像を確認してもらうことで、今後の改善に役立ててもらいたいと思っただけなのだ。
むしろ、宅配ボックスに空きがなく、オートロックのエントランスを突破できないため玄関前へ置くこともできず、おまけに郵便受けには微妙に入らないサイズの商品を、それでもなんとか届けようと知恵を絞った結果、紙袋の頭だけを突っ込むことで「置き配」を完了させることができる・・と考えたのならば、それはそれで感謝すべき英断といえる。
顧客からすれば商品をすぐにでも受け取りたいわけで、その希望を叶えるべく、本来ならば持ち帰るところをどうにかして置き配(?)にて対応してくれたのだから、むしろ称賛に値する。ただ一言、ショートメッセージでいいから事前に伝えてくれれば、個人的にはそれだけでよかったのだ。
そんなことを思いながらも、プロ謝罪師を前にするとこちらはただただうなだれるしかなかった。
仮にわたしがクレーマーだったとして、延々と罵詈雑言を浴びせたところで、彼は動じることなくひたすら電話の向こうで頭を下げながら謝り続けるだろう。非常に申し訳なさそうな声と口調で、クレーマー(顧客)と真摯に向き合いつつ、すべてを受け入れる姿勢を示しながら——。
(感情的なクレーマーには、このヒトを当てておけば解決するだろうな)
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クレーマーを駆逐するためのプロ謝罪師の存在は重要だが、今回のわたし程度の情報提供ならば、あえてそんな大御所を登場させるまでもない。むしろ、状況証拠となる画像を共有できたほうが、こちらとしてはスッキリするわけで。
そんなことからも、天下のAmazonさんにはルールベース型ではなくAI型のチャットボットを導入してもらいたい・・と願うのであった。
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