夕方食べたバターチキンカレーのせいか、はたまた抗ヒスタミン薬の副作用なのか。いずれにせよ、なぜこんなにも喉が渇くのか——。
とにかく異常なほどに水分を欲しているわたしは、晩飯のために入店した大戸屋にて真っ先にドリンクバーを注文した。なんせ、ドリンクバー単品で430円・・という価格は元を取るには十分な金額ではあるが、その上で、500円以上の食事とセットにすれば「230円で飲み放題」なのだから、これを逃す手はあるまい。
そのためにも、途中のコンビニをすべて無視して大戸屋へ直行したわけで、着席するなりすぐさまドリンクバーをタップしたのである。
だが一口目は、店員が運んできたウェルカムドリンク・・というか水だった。この時点で、わたしの喉は日照りで割れた田んぼのごとく枯渇していたため、水が置かれた瞬間にコップを掴むと一気に飲み干した。さらに、メニューに釘付けとなっている友人の目を盗んで、彼女のコップも空にしてやった。
——こうして生命の危機を脱したわたしは、臨戦態勢を維持したままドリンクバーへと向かったのである。
大戸屋に限らず、ドリンクバーというのはどこも似たような種類の飲み物が出てくる。中でも、わたしが好んで飲むのは「山ぶどう」だ。場合によっては白ぶどうとセットで置かれている店もあるが、今回は山ぶどう・・つまり紫色の液体をなみなみと注ぎ、席へ戻ると同時にグイっと飲み干した。
(これは相当喉が渇いている証拠だ・・)
——着席時間わずか3秒、わたしはすくっと立ち上がると再びドリンクバーへと戻った。
紫色でスタートを切ったドリンク・リレーの、次なる選手は「カルピス」だ。一風変わった飲み物というのも悪くはないが、「ここ一番で信頼がおけるのは誰か?」と問われれば、まず間違いなくカルピスの名前が挙がるだろう。
そんな、ドリンクバーの守護神たるカルピスのボタンを強打すると、いそいそと席へ戻るなりまた一気に飲み干した。
(こんなことなら、わざわざ席へ戻る必要などないのでは・・?)
紫→白とくれば、次は鮮やかな緑が相応しい。炭酸飲料を飲む機会は年に数回しかないが、お口直しも兼ねて「メロンソーダ」に白羽の矢を立てたわたし。この毒々しい鮮やかな緑色が、美味さはさておき視覚的な刺激と好奇心をくすぐるから不思議である。
そしてまたもや、腰を下ろすと同時にメロンソーダを空にしたわたしは、ふとこんなことを思った——もしも食道に弁(バルブ)があるとすれば、それが開きっぱなしになっているに違いない。
いくら喉が渇いているとはいえ、無意識に嚥下が行われて胃袋へと流し込んでいるこの状況は、さすがに常軌を逸している。夕方食べたカレーライスのせいだろうが、抗ヒスタミン薬の影響(この場合、喉が渇くというより唾液の量が減って口内が乾く・・という感じだから、わたしのそれとは違うはず)だろうが、考えられる原因からくる喉の渇きだけでなく、止水弁的な何かが壊れたかのような落下速度に、当事者であるわたしですら驚きを隠せないのだから。
とはいえ相変わらず喉は乾いているわけで、再び席を立つと次は「野菜ジュース」のボタンを押した。正直なところ、これはあまり美味そうではない。よって、こいつで飲欲(?)を抑えてバカになっている止水弁を調整しよう——。
言うまでもなく、そんな小さな抵抗は無駄に終わったわけだが、口中にまとわりつくモッタリとした"野菜感"を払拭するべく、今度は「オレンジジュース」を選択した。ジュースといっても濃縮還元果汁を水で薄めたもので、味わうというより"口内洗浄にピッタリの一品"といえる。
そして、オレンジにより酸性となった口内を正常のpHに戻す目的で、再び「山ぶどう」をがぶ飲みし終えた時、とある不安が脳裏をよぎった。
(ヤバいぞ・・これはもう、いくらでも水分を吸収できる状況だ)
冷たい飲み物の大量摂取により低下した体温を復活させようと、温かいお茶を胃袋へと流し込みながら、わたしは静かに考えた。果たしてこの数分間で、いったい何リットルの水分を摂取したのだろうか——。
冷静になって思い出してみると、ここへ来る二時間前にキウイフルーツを6個丸かじりしいてる。その理由は「喉が渇いたので冷蔵庫を開けたところ、キウイフルーツが6個入っていたから」という至極単純なものだが、無味の水道水を飲むくらいなら甘くてフレッシュなキウイのほうが幸せを感じられるわけで、その時点ですでに止水弁は壊れていたのだ。
そして風船に水を注入するかのごとく、水分の重みで底から膨らみ続けた胃袋は、どんどん空間を広げることでドリンクバーを飲み込んでいったのである。
(マジでこの辺りで止めておこう・・)
——水5杯、お茶3杯、ドリンクバー6杯を飲み終えた時点で、理性と自制心をフル稼働させたわたしは静かにグラスを伏せるのであった。
コメントを残す