シロガネーゼ、本命の足立区からぽっと出の北区へ浮気の危機

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わたしは港区に住むシロガネーゼだが、"本当の自分を出せる区は足立区"であることは承知している。足立区竹の塚こそが、わたしが生き生きと暮らせる場所であり、自分らしさを最大限に引き出せる聖地なのだと、自他共にそう思っているだろう。

そんな"足立区推し"のシロガネーゼは、とある理由から北区を蔑視していた。YouTubeで「23区内でもっとも治安が悪いのは、足立区か北区か?!」というような動画があったのだが、「ふざけるな、足立区と北区では天と地ほどの差があるわ!」と、思わず足立区在住の友人へ怒りのメッセージを送ってしまったほど、その動画を視聴したわたしは憤慨したのである。

23区最強・・いや"最恐"は足立区なのだ。北区など比べ物にならないほど、足立区はワルの魔窟であり、常にワーストワンの地位に君臨してもらわなければ、わたしが推す意味はないのである。そこへノコノコと北区が割り込んでくるなど、到底許されることではない。ワルぶりたい気持ちはわかるが、所詮は北区。どうか大人しく、"ひろゆき氏の実家の区"として落ち着いてもらいたいのである。

 

そんな北区蔑視のわたしが、昨日、北区の株が急上昇するような出来事に遭遇した。それは、北赤羽駅の目の前にある「ライフ」というスーパーへ足を踏み入れたときのこと。

(みかんが8個も入っていて、498円だと・・・?)

われらがシロガネーゼ御用達のクイーンズ伊勢丹など、みかん5個で800円くらいはする。おまけに、その隣には袋入りの種なし柿が5個で598円で売られている。クイーンズ伊勢丹ならば柿一つで250円するから、倍以上のお得感があるではないか。

とはいえ、青果物というのは食べてみなければわからない。もの凄く酸っぱかったり糖度が低かったり、だからこそ安い可能性もあるわけで、わたしは半信半疑のままみかんと柿の袋をカゴへと放り込んだ。

 

その後もキョロキョロと辺りを物色していると、今度は驚愕のカットフルーツを発見した。それはパイナップルをカットしたものだが、容器自体が小さなバケツくらいのデカさがあり、そこへぎっしりと詰め込まれたカットパインが、なんと498円という安さで陳列されていたのだ。

これは奇跡だ——。白金ならば、この半分のサイズで800円くらいするし、さらに小さなサイズでも500円はする。それを北区では、こんな破格の安値で売り出しているのだから、まさに奇跡としか言いようがない。

しかも駅の目の前という好立地にもかかわらず、財布に優しい価格設定に踏み切るとは北区恐るべし。もしかすると、我が推しの最恐・足立区よりも便利で安いんじゃないか——。

 

青果物売り場から惣菜コーナーへと移動したわたしは、これまた衝撃の価格にコンタクトレンズが乾燥するほど目を見開いた。

(す、寿司が500円で売ってる・・・)

適当な寿司が9貫くらい入った寿司の詰め合わせ、白金ならば1,300円はするだろう。ところがここでは、その半額以下となる500円で売っているではないか。しかもタイムセール前・・ということは、もっと遅い時間に来ればさらに安い値段で買うことができるじゃあないか——!!!

もちろん寿司だけではない。だし巻き玉子(ハーフ)は218円だし、いわしの竜田揚げは225円、さんまの竜田揚げも同じくらいの値段で、チーズのかぼちゃ包み揚げはデカいコロッケ2個で278円。——これはまさに"北区クオリティー"と手放しで称賛するしかないし、これまで北区を蔑視してきたわたしは叩かれても仕方がない。そのくらいに、北区のスーパーは値段も品揃えも抜群だったのだ。

 

店を出たわたしは、さっそくみかんの皮を剥いた。しっかりとした皮に親指を突っ込むと強引に半分に押し割り、そのまま親指で果実をくり抜き口へと放り込んだ——普通に甘くてジューシーだ。

続いて柿を掴むと、スウェットの裾でキュッキュッとこすってから齧りついた——こちらも普通に美味い。歯ごたえといい甘みといい、お値段以上のクオリティーと断言できる。

 

その後もみかんと柿を交互に食べ続けたわたしは、両手にみかんの皮と柿のヘタを握りしめた状態で困っていた。

どこかに捨てるところはないだろうか——と思っていた矢先に、ファミリーマートの看板が見えてきた。最近のコンビニはゴミ箱が店内に設置されており、なかなかゴミを捨てにくい雰囲気となっている。それでも、両手にみかんの皮と柿のヘタを抱えた状態で電車には乗れないので、どうか捨てさせてもらえないだろうか・・と、祈る気持ちでファミマの敷地へと足を踏み入れた瞬間、広々とした駐車場の奥で待ち構える店舗の入り口横に、昔ながらの大きなゴミ箱が設置されているではないか!しかもちゃんと、燃えるゴミとペットボトル、缶・ビンとに分けられており、燃えるゴミの投入口からは溢れんばかりの家庭ごみが顔を覗かせている始末

(さすがは北区、足立区とタメを張る覚悟がある様子・・)

 

 

こうして港区へ帰還したシロガネーゼは、北区の底力を思い出しながら、足立区からやや目移りしそうになっていたのである。

 

Illustrated by 希鳳

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