スタバに「盾の勇者」あらわる

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(ま、まぶしい・・・)

西日というにはまだ早い、午後2時半の強い日差しがわたしを照りつける。

ここは近所のスターバックス。店内は満席のため、やむを得ずテラス席でWeb会議に参加していたわけだが、いかんせん眩しいのだ。

 

よく見ると、周囲のテーブルにはわずかながらも日陰が存在する。なぜ同じテラス席なのに他のテーブルには日陰ができるのかというと、道路沿いに生えている街路樹のせいだ。街路樹の木陰がちょうどいい感じにテラス席にかかっているのである。

それなのに、わたしのこのテーブルだけは街路樹と街路樹の間に位置するため、木陰が発生しないのだ。

 

おまけに、向かいのマンションから伸びる影もこの席だけには届かない。ちょうど、ビルとビルの谷間にあたる部分がここだからだ。

なぜこうも上手い具合に日陰はわたしを避けるのか、不思議というより腹立たしい。というか、だからこそこのテーブルだけが空いていたのかもしれない。

いずれにせよ、この席以外はすでに陣取られているのだから、ここでどうにかやりくりするしかないのである。

 

(クソッ、太陽の反射で画面が見えない・・)

サングラスも帽子も持っていないわたしは、おでこの上に手をかざすことで灼熱地獄から身を守ろうとした。だが生意気にも、真昼の太陽はわたしの腕や顔をジリジリと焼いていく。

おまけに、さっきからずっと「敬礼」をしているわけで、腕が重力に逆らえなくなってきたではないか。

 

このままではマズい・・と感じたわたしは、眩しさに目を細めながら周囲を見回した。——どこか逃れられる日陰はないか? あるいは、日陰を作ることのできるアイテムはないか?

お犬様を連れたセレブは日傘を差している。生活に余裕のある地元夫婦はお揃いのキャップをかぶっている。つまり、ここにいる者は皆、何らかの日よけ手段を確保しているわけだ。おまけに木陰やビルの日陰に恵まれており、わたしだけが丸裸で灼熱地獄に放り出されたようなもの。

(クソッ・・貧乏で不運で意地汚い哀れな下民は、ここで丸焦げになれとでも言うのか?)

 

とその時、わたしはスタバの入り口に立てられている看板に目を付けた。銀色の金属でできているソレは、犬を連れている顧客向けの注意喚起の看板だった。

ほとんどが骨でできており、上部30センチだけが看板になっているのだが、この面の裏側に隠れていれば直射日光を避けられる。よし——。

 

わたしは立ち上がると、やや重たいその看板を引きずってテーブルの真横まで移動させた。そして椅子を動かすと、看板部分に顔が隠れるようにポジションを調整してみた。

(おぉ、これなら眩しくない!)

Web会議の相手からすると、わたしが屋外にいることは分かるだろうか、どのような状態・姿勢で挑んでいるのかなど知る由もない。なんせ、顔しか映していないのだから当然である。

そしてわたしは周囲の目を気にすることなく、椅子の上でヤンキー座り、いや、もう少し腰を浮かせた情けない姿勢をキープすると、真面目な顔でしれっとWeb会議を続けたのである。

 

(さながら、敵からの銃撃を盾で防ぐ勇者・・といったところだろうか)

 

馴染みの店員がテラス席の清掃に現れると、チラッとこちらを見るも、なに食わぬ顔で店内へと戻って行く。

散歩途中の犬がわたしの尻のニオイを嗅ぎにくるも、飼い主に無言でグイッと引っ張られ、散歩ルートへと強制的に戻される。

まだ二足歩行のおぼつかない幼児が、指をくわえてこちらを凝視していたところ、母親の手で目元を覆われて連れ去られる。

 

わたしを巡り色々な現象が起きたが、それでもめげることなく、看板を盾にして日光から顔面を守り抜いたわたし。

そしてなんといっても、看板の裏に顔をキープし続けることで、ここまで筋力を使わされるとは思いもしなかった。見た目はふざけた姿勢かもしれないが、ちょうどいい塩梅というのはラクして得られるものではないからだ。

 

こうして、さまざまな姿勢・格好を試みながら1時間が経過し、ようやくWeb会議が終了した。

時刻は午後3時半、まだまだ太陽は攻撃を続けている。だがわたしは、・・正確には「わたしの脚力」は、もうそろそろ限界を迎えようとしている。

 

やはり、勇者というのはそれなりに大変な職業なのだ。

 

Illustrated by 希鳳

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