目をつぶって齧ればニンジンの桃

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配慮とか気遣い、いや、すべてが優しさでできている友人から、美味そうな桃が届いた。そうか、もうそろそろ桃のシーズンなのか——。

わたしは果物の中で、桃が最も好きである。だが高級果実であるため、そうポンポン食べられるものではない。そのため、こうして贈り物として桃が届く以外には、なかなか手が出ないのも桃の価値を上げているといえる。

 

段ボール箱を開けると、中からまだ若い桃たちが現れた。人間でいうところの中学生くらいだろうか。大人と呼ぶにはまだ早い、しかし、幼稚な子どもよりは思春期まっさかりの年代といった頃合いか。

表面にそっと触れると、案の定、まだ硬い果実とチクチクする毛が生えている。

(2、3日放置するか・・)

食べ頃までに数日の猶予があるとみたわたしは、フレッシュな桃の果汁と絶妙な歯ごたえを夢見ながら、スイカを食べることにした。なぜなら、冷蔵庫にカットスイカがストックされているからだ。

 

タイムセールのシールが貼られたカットスイカを、4パックほど保管しているのを思い出したわたしは、さっそくそれらを食べることにした。

連日スイカばかり食べているわたしは、まるでスイカが大好物だと思われているかもしれない。もちろん、スイカは美味いし圧倒的な水分量には頭が下がるが、果物の中で何が好きかと問われれば、間髪入れずに「桃」と答えるしかない。スイカには申し訳ないがヒトには好みがあり、どうしても譲れないこだわりというものがあるのだ——。

そんな謝罪の気持ちを込めて、わたしはスイカにかぶりついた。

もはや口内で種を選別するのにも、時間はかからなくなっていた。コツは「あえて咀嚼しないこと」である。果肉をガブリと口の中へ放り込むと、そのまま静かに舌を動かして、果肉を果汁へとすりつぶすように撹拌(かくはん)するのだ。

そうすることで勝手に種だけが集まってきて、まとめて種を排出することができるということを、日々スイカと対峙することで学んだのである。

 

(・・・ダメだ、どうしても気になる)

 

にもかかわらずわたしは、どうしても「あのオトコ」を忘れることができなかった。スイカ(♂)には悪いが、わたしにとっては、やっぱり桃(♂)が一番なんだ——。

 

段ボールの蓋を剥ぎとると、キャッチボールができそうな硬さの桃を取り上げた。明らかに青い桃ではあるが、バナナだって青いうちに食べるのがわたしなりの美学。

果物はなんだって、完熟前の酸っぱかったり硬かったりするうちがベスト。ゆるゆるの甘々が食べ頃であるのは間違いないが、そんなもので満足するのは腑抜けた人間くらいだ。野生の動物たちは、完熟の一歩手前で食べきるのが常。

 

というわけで、わたしはまだ青い桃に齧りついた。

・・ガリッ

まるでニンジンを齧ったかのような歯ごたえだ。それでも、若いなりのフレッシュな果汁とみずみずしい香りが漂う。そして何度も齧りつくうちに、やや柔らかい果肉にたどり着いた。——おぉ、ここは桃だ。

 

こうして、9割ニンジンの硬さでできた桃を平らげたわたしは、とある利点に気が付いた。

桃といえばジューシーな果汁がウリだが、未熟な桃からは滴るほど果汁が出ない。そのため、丸ごと齧りついても果汁でベタベタになることもなく、きれいに食べ尽くすことができるのだ。

そもそも丸ごと桃を食べるわたしにとって、一番厄介なのは「果汁の処理」だった。しかし、こればかりはどうにもならない自然現象なわけで、ポストに投函される不要なチラシをそこらじゅうに敷き詰めて、ボタボタと果汁を垂らしながら桃を満喫していた。

だが、青い桃は果汁が垂れない。完璧な甘みや歯ごたえではないにせよ、果汁がこぼれない点は大いに評価できる。

 

 

こうしてわたしは、3つ目の桃へと手を伸ばしたのであった。

 

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