先週の日曜日、右大殿筋に軽い肉離れを起こした。
減量も兼ねて無駄にハードなスパーリングを続けたため、さすがの筋肉も悲鳴をあげたのか。
とはいえ、肉離れを起こしたのは練習中ではなく自宅。
テレビと壁のすき間に落ちた何かを拾おうとして、無理な姿勢で右臀部に力を込めて体を支えたせいで、ブチっと逝った。
いま思えば、なにも無理な姿勢で拾う必要はなかった。
体勢を整えて、棒でもつかって拾えばよかったのだ。
なのにめんどくさがりな私は、無理な姿勢、例えるなら「マトリックス」のようになりながら拾い上げた。
練習中ならカッコもつくが、自宅で物を拾おうとしての肉離れはカッコ悪すぎるため、肉離れの理由について口外すまいと誓った。
肉離れは、聞くところによると全治一か月ほどかかる厄介なケガ。
しかも、私の代名詞ともいえる立派な臀部の肉離れは、日常生活も含め不自由極まりない。
歩行は足を引きずりながらの超スローペース、練習も参加してみたがほぼ何もできない。
こんなことで、2週間後の試合に出場できるのだろうか。
*
先週の水曜日、練習もしていないのに腹が減りすぎて、いてもたってもいられなくなった。
そこで夜分にもかかわらず、得意のウーバーイーツを頼った。
一応、減量中の身ゆえ、たんぱく質中心の食事を選択する気遣いを見せた。
もう食べる量を増やすしかない。
この空腹を埋めるためには、大量に食べるしかない。
若干気が狂いそうになりながらもクリックしたのが、こちら。
(タンパク質147グラム、糖質12.6グラム、脂質10.8グラム)」
およそ3人前という注意書きのある、この商品を注文した。
ブロッコリーと鶏胸肉は減量の味方。
普段はケバブとキャベツで飢えをしのぐ私だが、近所のケバブ屋へ出向くのがめんどくさかったため、ウーバーイーツで代用した。
大量のブロッコリーと鶏胸肉を、ちょっとずつ、一口ずつ、時間をかけて胃袋へ送り込んだ。
よく噛むことでブロッコリーの甘みを感じる。
よく噛むことで鶏胸肉は舌の上で消失する。
食べ物に感謝の意を表しながら、ゆっくりと確実に2種類の食材を体内へと流していった。
野菜などほぼ水分だ。
鶏胸肉も水分とタンパク質だ。
とはいえ、900グラムの物質が体内に入ったことは間違いない。
さらに水やコーヒーも2リットルほどがぶ飲みした。
私は、体重計に乗る勇気を失った。
いま、単純計算で3キロの個体液体を体内に入れたわけで、これにより体重が変わらないわけはない。
10グラムだって増えてほしくないのに、私は3キロの “重り” を体内に蓄えたわけだ。
別に後悔はしていない。
なぜなら、空腹に耐えられなかったからだ。
あのまま発狂して事件でも起こせばよかったのか?
そんなはずはない。
つまり、この選択以外に正解などないわけで、何も間違っていない。
そう自分に強く言い聞かせた。
もはや、眠ること以外に正当化する方法は見つからなかった。
*
翌朝、普段より良く寝たような気分になりながら、ベッドから飛び降りた。
そう、飛び降りることができたのだ。
昨日までの臀部の肉離れは?
不思議に思いながらトイレで脱水し、モーニングルーティンである計量を行った。
すると、
目を疑う数字が表示されるではないか。
昨朝の体重から950グラム減っている。
そんなはずはない。
昨夜遅くに私は、ブロッコリーと鶏胸肉を900グラム食べ、水とコーヒーを2リットル飲んでいるのだ。
その時点でプラス3キロ、そして8時間睡眠しただけでそこから約4キロも、水分なり何なりが消えてなくなることなど、あり得るのか?
再度、体重計に乗った。
しかし、数字は変わらない。
ーー何が起きたんだ
しばし放心状態だった私は、このカラクリの原因に気が付いた。
ーーそうか!
ブロッコリーと鶏胸肉の栄養分が、大殿筋の肉離れの治療に使われたのだ
これ以外に考えられる体重減少の理由などない。
取り込まれた900グラムの鶏胸肉とブロッコリーが、せっせと大殿筋の傷を治しに向かったのだ。
そのため、体内に入った栄養分が予想以上の速さで消費され、消えた。
と同時に、大殿筋の肉離れも治った。
これしか考えられない。
事実、体重がとんでもなく減っていることと、昨日まで足を引きずって歩いていた人間がベッドから飛び起きてスキップするなど、これ以外の理屈でどうやって説明するというのだ。
食べ物のパワーは恐ろしい。
薬や湿布を貼るより、ブロッコリーと鶏胸肉を食べた方がケガの治癒は早いのではなかろうか。
そして私は、颯爽と練習へ向かった。
*
そこからさらに数日後、試合エントリーの締切翌日。
対戦相手が現れなかったため、私の試合は消えた。
奇跡的に成功した減量もケガの治癒も、無駄に終わった。
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