「ドリップ優先」の謎に迫る

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ここ最近、疑問に思っていたことがある。疑問というよりも、やや不快な思いをしていたので、「その行為の裏にはどのような意図があるのか」を知りたかったのだ。

するとそこには、意外な理由があって驚いた。

 

 

わたしは自他ともに認めるスタバヘビーユーザー。その昔はアルバイトもしており、顧客としても従業員としても、多角的にスタバを支えている。

しかしここ最近、少し気になる対応があった。もちろん店舗にもよるだろうが、それはレジでの出来事である。

 

レジ前に立つと、飲みたいドリンクを伝え、支払いをするべくモバイルアプリを開くわたし。そしてQRコードを表示させて、店員の前に置く――。

この動作をしている間、店員は注文した商品を復唱している。それが終わらないうちに支払い画面を開き、彼ら/彼女らに差し出しているのだが、なぜか必ず、

「それではコーヒーを先にお渡ししますので、少々お待ちください」

と言い残すと、クルっと後ろを向いてドリップの準備に行ってしまうのだ。

 

QRコードを表示させたスマホが、その場でポツンと独りぼっちになる。

たとえるならば、握手をしようと差し出した手を、笑顔で交わされた時の気分である。

 

30秒ほど待たされた後に熱々のドリップコーヒーを手渡されると、ようやくわたしのスマホへ専用端末が向けられた。

――ピッ

支払いは一瞬で終了。そして店員から、

「残りのドリンクは、あちらのバーカウンターからお渡しします」

と案内され、わたしのターンは終わった。

 

私が知る限り、スタバやタリーズでは、ドリップコーヒーはレジカウンターから提供される。

そして「ひと手間加えた商品」、つまりラテやフラペチーノ、フード類などは、少し離れたところにあるバーカウンターから受け取る仕組みとなっている。

 

これは、商品提供の迅速化を促すための、カウンター内の配置によるもの。

ほとんどの店舗で、レジの背後あるいは近くにドリップマシンが設置されている。そのため、注文を受けたらその場でドリップコーヒーを用意し、レジカウンター越しに手渡すことで、注文から提供までを一気に完了させることができるのだ。

実際に、ドリップコーヒーはカップに注げば終わりである。そのため、わざわざバリスタに用意させるのではなく、キャッシャー(レジ担当)が対応することで、従業員にとっても客にとってもベストな対応となるのだ。

 

しかし、この仕組みは理解しているにせよ、

「客が支払い画面を出しているのに、あるいは現金をトレーに置いているのに、なぜその行為を放置してまでドリップコーヒーを入れるのだろうか?」

という疑問が湧いた。

 

繰り返しになるが、こちらからすると、差し出した手を握り返してもらえなかったかのような、寂しさというか虚無感が残る。

それならば、一瞬で終わるのだから先にQRコードを読み込んでくれればいい。

そうすればスマホをしまうことができるし、他の支払い方法であっても、カードや現金を財布に戻すことができるわけで。

 

支払い画面はいわば現金と同じ価値がある。つまり店員は、カネをその場に広げたまま、コーヒーを入れに行ってしまったことになる。

当然のことながら、カネなど人目に付くところへ晒さないほうがいい。やはりどう考えても先に処理すべきだ――。

 

そんなことを思いながら、今日もまた、アイスグランデドリップ(グランデサイズのアイスコーヒー)をテイクアウトで注文した。

そのほかにも3つほどドリンクを注文したので、合計4つのドリンクを、手提げ袋に入れた状態で提供されるものだと思っていた。

そしていつものごとく、店員が注文内容を復唱する間にモバイルアプリを開くと、手のひらに載せて差し出した。

 

「アイスコーヒーをご用意しますので、少々お待ちください」

 

これには驚いた。すべて持ち帰りなのだから、なぜこの場で手渡ししようとするのか?そんなにもわたしが、アイスコーヒーに飢えた表情をしているのだろうか?

 

そこでわたしは店員に、「ほかのドリンクと一緒に、手提げに入れてくれればいいよ」と伝えた。多分彼女は、アイスコーヒーだけを手渡ししようとしているのだから。

すると彼女は笑顔で、

「はい、もちろんです」

と答えた。

 

(ん?なぜ手提げに入れるのに、会計を後回しにしてアイスコーヒーを用意しているのだ?)

 

どうにも納得のいかないわたしは、グランデサイズのアイスコーヒーを紙袋へ入れる店員に尋ねてみた。

「前から思ってたんだけど、会計よりも先にドリップの用意をするのって、何を意図してのオペレーションなの?」

すると彼女は、

「『この場でドリップを渡す』と伝えても、支払いが済むと居なくなってしまうお客様が多いんです」

と教えてくれた。

なるほど、それは分かる。わたしが働いていた頃にも、大声で客を呼び戻した記憶が何度もある。そのたびに「客とは勝手な生き物だ」と辟易していた。

 

さらに続けて、

「会計後にドリップの用意をすると、前のお客様がどいてしまって次のお客様がそこへ立ちます。しかし注文を受けられないので、その場で待たせることになります。なので、先にドリップを渡してから会計をすることで、スムーズに入れ替えができるんです」

と説明してくれた。

 

たしかに前の客がどけば、後ろの客は「自分の番がきた!」とばかりに、すぐさま注文を始める。

しかし、ドリップを入れている店員はこちらに背中を向けているわけで、それに対して短気な客は「ちょっと、注文いい?」などと急かす。

これに対して店員が「少々お待ちください」と言ったところで、「さっさと注文させろよ」と内心イライラするだろう。

 

こういったトラブルを避けるためにも、前の客をレジ前に据え置く必要がある。その確実な手段が、「支払わせない」ということなのだ。

 

わたしは思わず「なるほど」と唸ってしまった。

自分自身へのサービスだけを考えると、カネを並べたのに放置されているわけで、憤慨モノである。しかし店全体の流れを考えると、客をこの場からどかせないことで、無駄なトラブルを未然に防いでいるわけだ。

 

これからは寛大な心で、ドリップが出来上がるのを待つことにしよう。

 

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