しかし日本にいると、通信環境が安定していることに感謝せずにはいられない。
地下鉄などでちょっと電波が悪くなったとて、次の駅に着けばアンテナは元に戻るわけで、たった数分間の我慢で解決されるのだから。
それなのに文句をいう奴は、一度、海外で不便な目にあってこい!
そして今では、空の上でも電波を購入することが可能となり、まさに24時間どこにいても仕事ができる時代となった。
無形のサービスというのは目に見えない分、「あって当たり前」という感覚が先行しがち。それは接客業などのサービスにもいえることだが、決して当たり前ではないということを、己に叩き込んでおくほうがいいだろう。
目に見えるものでしか判断できない、人間の弱点ともいえる部分だからだ。
エコノミークラスのわたしは、今回、太平洋上空でWi-Fiを購入することにした。
およそ9時間のフライトで、さすがに仕事をしないのはマズいだろう、ということでANAが提供するWi-Fiを購入すべく、スマホを操作しているところである。
(フルフライトだと22ドル、3時間で17ドルか。最短だと30分で7ドル、うーん迷うな・・・)
なぜ迷うのかというと、ネット接続が必要な場面というのはわりと瞬間的なもの。たとえばメール送信するにしても、電子申請するにしても、その瞬間だけ電波があればいい。
そうなると、先に必要な準備を済ませたうえで「30分7ドル」を選んで、30分間にちゃちゃっと送受信してしまうというのが、コスパ的にはいいはず。
だが空の上は不安定である。その30分をフルに使える保証はどこにもない。途切れ途切れで最終的に、
「チキショー!追加購入しなきゃならない!」
と、ならないとも限らないわけで。
かつ、空の旅は食事やらコーヒーやらサービスも豊富なため、こちらの自由に仕事が進められるとは限らない。ならば保険としても、フルフライトで購入しておいたほうがいいのではないか。
色々考えたあげく、「こんなちっちゃなことで迷ってる場合じゃない!」ということで、フルフライト22ドルでWi-Fiを購入したのであった。
(これで心置きなく仕事ができる!)
そう思ったのもつかの間、わたしは非常に恐ろしい事実に気がついてしまった。
なぜなら、わたしは今、スマホでWi-Fiを購入した。ということは、このスマホでしかWi-Fiを受信することができない。
e-Govを使った電子申請や大画面での原稿作成など、仕事をする上で必要な環境はパソコンにある。スマホである程度まで仕上げることはできても、パソコンでの作業速度には敵わないし、効率が悪すぎる。
むしろ、パソコンでWi-Fiを購入するだけでよかったのだ。なぜならパソコンにはLINEなどのSNSもインストールしてあるし、スマホでできることはほぼすべて、パソコンでもできるのだから。
とはいえ、パソコンでWi-Fiが使えなければ本当に仕事にならない。つまりいずれかのプランで再購入しなければならないのだ。
(今度こそ、30分か3時間か――)
えぇい!もはやケチケチしてもしょうがない!
円安の今、わたしは思い切ってパソコンのほうでも、「フルフライト22ドル」を泣く泣く追加購入してやった。
これで思う存分、スマホでもパソコンでもWi-Fiを使ってネット接続ができるじゃないか。
贅沢にも2つのデバイスから接続できとは、なんと素晴らしいネット環境か。きっとすべての搭乗客が羨ましがっているにちがいない。
そう思いながら、わたしは荒んだ気持ちを落ち着けるためにも、ルーティンであるカピバラの動画を鑑賞した。
(あぁ、この間抜け面を見ると気持ちが安らぐ・・)
そしてこの小さな安らぎを、友人にも共有してあげようとリンクを送信したところ、
「上空一万二千メートルで、間違って六千円も払って、やってることはいつもと同じじゃんww」
という、ナメた返信が届いた。こいつには、「いつもと同じ」がどれほど価値のあることなのかが、まったく分かっていない。
しかもこのカピバラは、普段以上にカネがかかっているわけで、ありがたく拝見すべきものなのに!
・・まぁいい。まずは仕事仕事。
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