かくも甘くなき果実

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夜中に突然、というか明け方に突然、新鮮な果物が食べたい!と思うことはないだろうか?きっと誰しもが経験する現象だろう。

 

人間はなぜか、営業時間外に限ってその食べ物が食べたくなるもの。その証拠に今回も、果物を売っている近所のスーパーは夜10時に閉まり朝10時までやっていない。

だが近くにナチュラルローソンがあるわけで、ちょっと足を延ばせばフルーツに手が届く。

無論、新鮮かどうかは度外視となるが、「果物が食べたい」という欲求を満たすには十分な商品が、ナチュラルローソンには陳列されているはずである。

 

ところがわたしは、ナチュラルローソンへ行くことが面倒でならない。言い訳をするならば、一人暮らしの女性が夜中に一人でコンビニへ行くなど、「犯罪に巻き込んでください」と言っているも同然。

よって、自己防衛の観点からもコンビニへ出歩くことは避けているのだ。

 

となれば残る手段はただ一つ、ウーバーイーツしかない。

 

だが残念なことに、ウーバーイーツで果物を運んでもらうには、朝の7時まで待たなければならない。

今が4時なのであと3時間ほどあるが、現実的な手段として果物を最速で手に入れる方法は、ウーバーイーツしかない。よって、ここは3時間我慢することとしよう。

 

――こうしてわたしは3時間、ただただフレッシュな果物の画像を眺めることで、時間を費やしたのであった。

 

そしていよいよ7時。さっそくアプリを開くと果物を注文した。わたしの大好物であるブドウや桃があるではないか!

シャインマスカットにナガノパープル、黄金桃に極早生みかんなどなど、フルーツの加工品ではなく、純然たる果物が並べられている。しかも値段もさほど高くない。

 

皮ごと食べられる種なしブドウに目がないわたしは、さっそくシャインマスカットとナガノパープルをクリックした。続いて、瀬戸ジャイアンツとオーロラブラックというブドウも試すことにした。

商品名を羅列すると長くなるので割愛するが、ウーバーイーツマーケットで注文できる果物すべてにチェックをし、購入した。

 

(いよいよ、待ちに待った果物とのご対面だ!)

 

そして20分後、大量の果物たちが届けられた。

さっそく袋を破り捨てると、真っ先にシャインマスカットをもぎとった。粒が不揃いだが、見た目などどうでもいい。味がすべてである。

(・・シャインマスカット風?)

まぁまぁ味については仕方ない。値段も安いわけだし、そんな高望みをしていたわけではないのだから。世間一般的なシャインマスカットの底辺が、この辺りなのだろう。

 

では続いてナガノパープルはどうかな?

(・・んー、ゆるいお味ですな)

熟しすぎてるわけではないが、なんというか果実と果皮の間にズレがあるというか、噛みごたえに欠ける印象である。

とはいえ果物に罪はないし、それなりの値段で買ったのだから、このくらいのギャップは想定内としなければならない。

 

しかしわたしの中で、どうしても拭い去ることのできない考えが浮かんでくる。

 

果物というのは現物がそのまんま届くわけで、どうしたって言い逃れができない「厳しい現実」がある。

加工品ならば途中の過程でどうにか取り繕うこともできるだろう。調理方法によっては、値段が安くても美味しい商品となることも十分にありえる。

しかし青果物というのは、そのもの自体で勝負しなければならない分、どうしても優劣の差は出やすい。カレーや野菜炒めのように、食材としての青果物ならばまだしも、わたしのようにダイレクトに齧りつこうとしている人間にとっては、やはり、素材こそがすべてとなってしまうのだ。

 

(ダメだ、どうしても確かめなければ気が済まない・・)

 

こうしてわたしは朝の10時まで待つと、近所の高級スーパーへと走った。

 

(シャインマスカットってどんな味だっけ?ナガノパープルってどんな噛み応えだっけ?極早生みかんって甘みはないんだっけ?サンつがるってシャキシャキしてないんだっけ?)

 

とにかくこれらを確かめるまでは、果物を食べた気にはなれない。これでは果物に対しても失礼であるし、なによりわたし自身が納得いかないのである。

 

(わたしの信じる果物を、この歯で、この舌で確認せねば!)

 

・・こうしてわたしは、同じ果物を二度購入することとなったのである。しかも二度目は金額も倍近くかかったわけで、

「これならばもう3時間粘って、スーパーの開店を待てばよかったのでは?」

などと考えないように、気をつけている。

 

サムネイル by 希鳳

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