右足の甲を擦りむいた。
昨日、タタミの道場でスパーリングをしたときに、足の甲を下にしてカッコよく滑り込んだら、まぁるく擦り剥けた。
これがまた、地味に痛い。
大袈裟にしてるわけではないが、シャワーのときなど、ものすごく滲(し)みる。
さっきもシャワールームで、
「ギャァァァァ!!!」
と、叫んでしまった。
たかが擦り傷、にもかかわらず、地味に私の足を引っ張る。
*
足の甲にできた直径25ミリの擦り傷。
こんなもの、人生において1ミリも影響しないわけで。
しかし、私の日常生活に地味に影響が出ている。
たとえば自宅にいるとき、室内だがクロックスを履いている。
そのクロックスが、擦り傷に当たる。
キズパワーパッドを貼っているので直に当たるわけではないが、トイレに行こうにも右足を上げるとクロックスが当たるので、結果的に足を引きずるしかない。
クロックスの位置をずらして、擦り傷に触れないポジションを探すが、クロックスの素材が固いため、どうやっても擦り傷に当たる。
最終的に右足だけ裸足ということで落ち着いた。
(最初からそれでよかったはず)
*
風呂やシャワーは地獄だ。
とにかく右足の甲をかばって、サッと烏の行水。
外出時、当然の如くサンダルが傷に当たるので右足を引きずるしかない。
しかし、引きずるうちに「最速で進める足の引きずり方」をあみ出した。
足を上げる動作のときに傷に当たって痛いのだ。
足を上げるから、サンダルと足の甲がぶつかるのだ。
つまり、足をスライドさせる動きならば、痛みを最小限にとどめることができる。
そして私は実践してみた。
イメージは、料亭の美人女将が、竹の柄杓(ひしゃく)で上品に打ち水をする姿。
私の右足が柄杓で、サーッと水を撒くように弧を描きながら、つま先を前方へ送り出す。
(おぉ、痛くない!)
この作戦が奏功し、結構な速さ且つなめらかに地面を滑るように歩き出した。
歩き方がおかしいかどうかは自分自身では確認できない。
しかし、当然おかしいのだろう。
溜池山王駅の通路で、私の周囲3メートルは常に空いていた。
調子に乗った私は、体を斜に構えることでよりスピーディーに進める体勢をあみ出した。
痛くないほうの足(左足)を前にしても、さほど距離は稼げない。
痛いほうの足(右足)に遠心力を付けて、思い切り前方へスライドさせることで、距離を稼ぐことができる。
つまり、体の右側面を前にして左足で地面を蹴りながら、右足で打ち水の動作をする。
そうすると、普通に歩くよりも速く進めることが分かった。
*
擦り傷をかばった状態、かつ、スピーディーに歩ける方法をあみ出したわけだが、怪我や失敗から得られるものはいつだって大きい。
ろっ骨を折ったときは、くしゃみの止め方を開発した。
尾骨を骨折したときは、横座りしながらお尻を浮かせる方法を開発した。
足関節の靭帯を切ったときは、地面を擦ってもソールが減らない靴を開発した。
いつだって、失敗(ケガ)と発見は表裏一体だ。
そしてたった今、新事実を発見した。
キズパワーパッドの周囲に、魚の目パッドを貼ることで高さが確保される。
そうすることで、サンダルが傷に触れることなく快適に過ごせる。
これでもう、歩き方を工夫する必要もなくなってしまった。
たかが擦り傷だが、本当に、地味に痛いのだ。
どうせなら大ケガのほうがマシだ。
見るからに痛そうならば、痛がっても受け入れられる。
しかしこんなちっぽけな擦り傷じゃ、誰も心配してくれないどころか、ウザがられるだけなのだ。
だけど、それでも何度でも言う。
地味に痛い。
Illustrated by 希鳳
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