「オレんちの近くで、野生のカピバラが泳いでるらしい!」
関西に住むアホな友人からメッセージが届く。カピバラ評論家の私に向かって、何を寝ぼけたことをぬかすか。
たしかに関東でも、飼育していたカピバラが脱走し、悠々と川を泳いでいたところを捕獲された、というニュースはたまに聞く。
だが日本において、カピバラが野生で生息することはない。理由は冬の寒さに耐えきれないからだ。とはいえ例外もある。9年前、沖縄県の石垣島で近くの動物園から逃げたカピバラが、野生でたくましく生きているという話題が取り沙汰された。
当時、消防士らが捕獲を試みるもすんでのところでカピは逃亡。その後、何度か目撃情報はあるものの、人間に捕まることなく野生を謳歌している模様。今現在、野生カピがどうなっているのか分からないが、捕獲されればそのニュースが流れるはずなので、今もなお一人で自由に生きているのだろう。
というわけで、野生のカピバラが関西に生息するはずがない。いったい何とカピバラを見間違えたというのか?大した期待もせずに、友人から送られてきた画像を開いてみた。
(・・・カピバラに尻尾が生えている)
そこに写っていたのは、カピバラによく似たニセモノであった。耳、目、鼻の位置がそっくりで、体毛も似たような色と形状をしている。だがニセモノには長くて立派な尻尾が生えている。
私はすぐさまその生物について調べた。するとそいつは「ヌートリア」という、南アメリカに生息する特定外来種だった。たしかに齧歯類だけあり、カピバラの近親者といっても過言ではない。だがそいつの別名をみた瞬間、思わず勝ち誇った気分になった。
カピバラは漢名を「水豚」という。齧歯類とはいえ、そのフォルムは豚やイノシシに似ているので、読んで字のごとくといったところ。
それに対してニセモノのほうは、別名を「沼狸」と呼ぶのだそう。
(沼に住む狸?!プププー!!)
カピバラと肩を並べようだなんて百年早い。豚と狸では格が違いすぎるのだ!
この沼狸とやらに、恨みや因縁があるわけではない。だが私の愛するカピバラと見間違うほどのフォルムを持ち、それを見た友人は「ペットとして飼いたい!」などとほざくのだから、さすがに黙ってはいられない。
しかし沼狸ことヌートリアには、人間の勝手による悲しい過去があった。
昭和初期、フランスなどから輸入されていたヌートリアは、主に軍用の毛皮として重宝がられていた。しかし第二次世界大戦後、その需要もなくなり逸出・放逐されたのだ。その結果、野生で繁殖し続けた彼らは、イネや水辺の農作物へ被害をおよぼすとのことで害獣とされたのである。
なんと哀れな沼狸よ・・・。
湿っぽくなってしまったので、いま一度、カピバラの愛らしさについてヌートリアと比較してみよう。
まず食べ物を食べる時、カピバラは牛や豚のように手を使わず口だけでモグモグやる。だがヌートリアは、まるでネズミやリスのように両手で食べ物を挟んでカリカリやるのだ。
「手で掴んで食べるなんて、かわいいー」
なんて黄色い声が飛びそうだが、どう考えたって無表情で朴訥としたカピバラのほうがかわいいに決まっている。
そしてカピバラの足は体の割には細いが、ヌートリアと比べるとそれはそれは太くて短い。水かきだってまるでカッパのように立派である。
対するヌートリアは、所詮、ネズミの延長。水かきらしきものはついているが、泳ぎも歩きもかわいらしく、カピバラのような太々(ふてぶて)しさが感じられない。
見よ、カピバラの堂々たる行進を!ふてくされた表情で、ノッシノッシと移動するあの様を!
特筆すべきカピバラの特徴として、顔が無表情であることが挙げられる。さらに無表情というより、不機嫌そうな面構えであることが何よりもカピバラらしい。
よって、カピバラ大好物のトウモロコシやスイカをあげても、当たり前のようにモシャモシャとがっつくクールな食べっぷりこそが、カピバラが愛される所以である。
沼狸なんぞに負けてたまるか。フンッ!
サムネイル引用元:ヌートリアの生物学/農林水産省
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