乙の瞳が見つめるもの
麻酔から覚めつつある乙は、虚ろな目で唇をだらんと垂らしながらわたしを見ていた。正確には、わたしのほうに顔を向けてはいるが、わたしが誰だか分かっていない様子である。 (こんな風にされて、乙は怒っているかもな・...
麻酔から覚めつつある乙は、虚ろな目で唇をだらんと垂らしながらわたしを見ていた。正確には、わたしのほうに顔を向けてはいるが、わたしが誰だか分かっていない様子である。 (こんな風にされて、乙は怒っているかもな・...
「乙はどうして、こんなにも頑張るんだろう」 眠りたくても眠れずに震える前足で体を支えつつ、必死に口呼吸を続ける哀れな乙を見守りながら、涙声で母が問う。——答えは簡単、乙の命はまだ続くからだ。 ...
正直なところ、わたしは"彼"が誰だか分からなかった。なんとなく見たことがある気もするが、このイベントに参加しているメンツとは、過去にどこかで会っている可能性があるので、きっといつかの記憶が残っていたのだろう...
長野市といえば、善光寺や戸隠神社、川中島古戦場など歴史情緒あふれる史跡が有名。 さらに、冬季オリンピックが開催されたり、桃や葡萄、りんご、栗など青果物が上質であったり、蕎麦やおやきなど"長野ならでは"の名産...
犬にも「外面(そとづら)のいい個体」というのが存在するのだろうか。はたまた、緊張による筋肉の収縮で一時的に症状が改善されただけなのか——。 * 乙(フレンチブルドッグ、メス・11...
昼前に母から電話があった。「もしもし」と言っても返事がないので、電波が悪いのかとスマホを顔から離した瞬間、震える声で母がこう言った。 「乙が、乙がもう駄目かもしれない」 そして大声で泣き始めたのだ。 &nb...
住む場所を決めるにあたり、重要な要素がいくつかある。たとえば、東京近郊の一人暮らしならば、駅から近いことや宅配ボックスが設置されていることなどが必須となるだろうし、地方であれば駐車場付きの一軒家で一国の主と...
学生時代以降、わたしは組織に属していた期間が短いので、自分の考えが絶対的に正しいのかどうかは分からないが、それでも社会人として感じる「他社の人間との接し方」について、およその指標は持っている。 わたし自身の...
久々に実家へ帰省したわたしは、玄関を開けた瞬間に大きなショックを受けた。普段ならば「ただいまー」と叫ぶと、ドタバタ飛んでくる乙(オツ)の出迎えがないのだ。 「あら、おかえりー」 「なんだ?帰って来たのか」 ...
よく「地方再生」という言葉を聞くが、それは地方へカネをばら撒くことで実現する未来ではない。むしろ、地方に住むひとたちがやりたいことをやったり、挑戦したいことに取り組んだりすることで、その結果として地方が活気...
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